照明のことが分かる講座
3-5 ダウンライトの選び方
ダウンライトにはおもに全般照明用と局部照明用、壁面照明用の3種類があります。それぞれ用途が異なりますので適切に選び、配灯することで照明効果を高めることができます。
ダウンライトは別に使用場所で制約を受けます。住宅で断熱施工天井に取り付ける場合、一般型(M形)ではなく施工内容に応じて、例えばマット敷工法であればSG形、ブローイング工法はSB形(マット敷にも使用できる)を選びます。またバスルームをダウンライトで照明したい場合は防湿形を、雨風の影響を受ける軒下では防雨または防滴器具を選ばなければなりません。
全般照明用に求められる要点は高効率でグレアレス(まぶしさのない)器具を選ぶことです。
そのためにできるだけ器具効率(器具から放射される光束をランプの全光束で除した値)または固有エネルギー消費効率(LEDモジュール一体型器具の場合で器具から発する全光束をその器具の入力電力で除した値〔lm/w:ルーメンパーワット〕を用いる)の高いものが勧められます。同時に器具が視野内でまぶしく光るようなものは避けなければなりません。そこ
で配光形状は鉛直面配光曲線の片側0~60°内(有効ゾーン)にできるだけ多くの光束が収まり、より広角であることが望まれます。
白熱電球用ダウンライトでは理想的な配光がありました。それはバッドウイング(蝙蝠の羽に似た形状)配光と言われ、アルミ蒸着の反射鏡付きで光の反射具合が計算されています。
そのため器具ピッチを広げても床面や作業面で一様な照度が得られます。(図1)
今日、光源がLEDになって、特にLEDモジュール一体型器具はバッドウイング配光にすることが難しいといわれてきました。しかし最近になってバッドウイングに近い配光器具が開発されています。

図1 バッドウイング配光
天井高さが2,4~3mほどであれば、全般照明用器具の配灯は一般には整列もしくは千鳥配灯にします。そして2~3mの器具間隔にすることで、より一様な明るさが床面や作業面で得られる器具が求められます。(図2 整列配灯例)その際、器具は壁から1M前後離して壁面に強い光のスカラップ(ホタテ貝のような形状)が生じないようにします。(写真1)しかし空間に照度の均斉度を求めない場合はこの限りではありません。むしろ壁に光のスカラップを積極的に演出することもあります。(写真2)

図2 整列配灯例

写真1 光のスカラップ

写真2 木製パネルの壁面を生かしたスカラップの演出(器具配光によって器具間隔を調整する)
これはスポットライト器具がダウンライトに内蔵されているもので、ユニバーサルダウンライトと言われます。おもに絵画や観葉植物などのインテリアエレメントを照らして周辺から浮かび上がるような効果を生みます。器具によってスポットライト部が天井面からはみ出して見えるものと天井内に完全に隠れるタイプがあります。前者はスポット角度の調整が器種にもよりますが0°~45°くらいまで可能ですが、多数取り付けると配灯パターンを考慮しないと、天井面が少し煩わしく見える恐れがあります。後者は普通のダウンライト器具同様天井面がすっきりしています。しかし照射角度の調整幅が少ない(約0°~30°)です。(写真3) この種の器具で高級器種になると反射鏡がアルミ蒸着仕上げで曲面が設計されることで器具自体は光りません。そのため比照射物だけが明るく空間から浮かび上がります。その様子はどこから照明されているは分かりにくく、まるでマジックを見ているようで、演出次第で人々を感動させる効果が期待できます。
局部照明用には以上の他に普段はスポットライト部がダウンライト器具の中に隠され、必要なときに引っ張り出してスポットライトとして使えるダウンスポット器具があります。

写真3 ユニバーサルダウンライトによる絵画照明
これはウォールウォッシャと呼ばれるもので、その名の通り壁を洗い流すように壁全体を一様に照明する器具です。タペストリーや絵画が展示されている壁の照明に適していますが、材質や仕上げに凝った壁面や、明るい仕上げの広い壁にも勧められます。このような壁面が周辺より明るく浮かび上がると、空間に広がりや奥行き感を強調し、演出次第では高級感も得られます。(写真4)

写真4 ウォールウォッシャ照明例
以上のようにダウンライトは大別すると3種類ですが、メーカ各社は器具の大きさや配光、光源の色温度や演色性など独自の考えで商品バリエーションを増やしています。したがって性能の異なるダウンライト器具を同一空間で使う場合が多々生じます。その際はできるだけ同じメーカで揃えることが望まれますが、難しい場合はトリムの色、反射板の輝き度合、光源の色温度など見た目で違和感が生じないようにすることが大切です。
『照明のことが分かる講座』の目次
第1章 照明の基礎知識
-
1-1光とは光には私たちの目に見える光と見えない光があります。太古の昔から人が見てきた光は太陽や星の光、そして火の光です。
-
1-2照度のお話し照度とは光で照らされた場の明るさのことを言います。
-
1-3光束と照度の関係一般照明用の白熱電球(普通電球とも呼ばれる)は40Wより60Wの方が明るいです。そのためW(ワット)数の高いほど「明るいランプ」と思われがちですが、例えば蛍光ランプの40Wは電球60WよりW数が低くとも数倍明るいです。 この例でもわかるようにW数は明るさを表す単位ではないのです。
-
1-4照度の黄金比明るさ感は照度の高い低いだけではなく、照度対比によるところも大きいです。例えば写真1と写真2を見て下さい。
-
1-5輝度とは街の明かりが届かない自然豊かな場所で、懐中電灯を夜空に向けて照らすと、まるでレーザービームのような一筋の光芒を見ることができます。
-
1-6白色光源の色温度照明ではよく「白色光」と言う名称が使われます。太陽の光や青空光は白色光です。またキャンドルや白熱電球・蛍光ランプなどの人工光源も白色光を放ちます。
-
1-7色温度を測定してみるとCIExy色度図(以下xy色度図)はCIE(国際照明委員会)によって承認された光色の表し方です。照明関係者だけでなく色彩の勉強をされている方にもおなじみの図表です。
-
1-8演色性とはお店で見た肉や魚の赤身がおいしそうに見えたのに家で見たら少し違って見えた、という経験をされた方は少なくないと思います。
-
1-9配光と配光分類一般照明用白熱電球(以下、普通電球)を点灯するとフィラメントを中心に四方八方へ360度にわたって光の放射していく様子がイメージできます。
第2章 光源の種類と特徴
-
2-1白熱電球、その進化白熱電球は1878年アメリカのトーマス・エジソンによって発明された、と言われています。
-
2-2豊かな種類を誇る白熱電球白熱電球を用途別に分類すると前回紹介したように一般照明用、投光照明用、装飾照明用に大別されます。
-
2-3蛍光ランプ、その進化とプロセスいままで家庭やオフィス照明などで欠かせない 蛍光ランプ(熱陰極蛍光ランプ)は1935年アメリカの大手電気メーカであるGE(ゼネラルエレクトロニクス社)のインマンによって発明されました。
-
2-4蛍光ランプの種類蛍光ランプを形状別に分類すると、おもに直管形、環形(丸形)、小型変形があります。
-
2-5HIDランプの種類と性能HIDランプは高輝度放電ランプのことで「High Intensity Discharge Lamp」の頭文字をとった略称です。
-
2-6LEDランプ、その進化プロセス今、照明=LED(発光ダイオード)と言われるほど、LEDがあらゆる空間の照明に注目されています。
-
2-7LEDに関する用語の解説LEDに関する専門用語は多々ありますが、特にLED照明を理解するために必要な用語を整理して次に紹介いたします。
-
2-8LED電球の種類LED電球(電球形LEDとも言われる)は白熱電球の代替になるLED光源で、口金の形状がE形(エジソンベース),B,GX53形のいずれかを備えたものを言います。
-
2-9LED電球の選び方今日、一般照明用LED電球は多くの白熱電球用器具(以下、白熱灯)に使われています。そのなかで最近注目されているのが密閉対応型です。
-
2-10直管形蛍光ランプ代替のLEDランプ直管LEDランプ(LED蛍光灯、直管形LEDなどともいわれる)とは直管形蛍光ランプの代替用途になるものです。
-
2-11特殊照明用LEDランプ一般照明用のLEDランプ以外に特殊な用途を持ったLEDランプがあります。ここではその幾つかを紹介いたします。
-
2-12有機ELと無機ELLED照明が普及しつつあるなかで、いまELが注目されています。ELはLEDの技術では難しいとされる、薄くてぎらつきのない面発光を特徴とする光源です。
第3章 LED照明器具の選び方
-
3-1照明器具とその種類照明器具とは様々な素材を用いて光源とその点灯に必要な部品を安全に固定し保護したもので、電気的部分と光学的部分、および機械的部分からなります。
-
3-2照明器具に使われる素材照明器具には様々な素材が使われていますが、その中でガラス、プラスチック、金属が3大素材と言われます。
-
3-3日本の住宅照明に欠かせないシーリングライト1970年代、蛍光灯の普及によって日本の住宅照明には欠かせなくなった照明器具に大型のシーリングライト(以下、シーリングライト)があります。
-
3-4ダウンライト器具の種類ダウンライトは天井に穴をあけて、そこに埋め込まれる器具です。したがって器具そのものの存在をあまり感じさせないで空間の明るさを得ることができます。
-
3-5ダウンライトの選び方ダウンライトにはおもに全般照明用と局部照明用、壁面照明用の3種類があります。
-
3-6ペンダントライト器具とは消費税が導入される前、個別消費税の一種で物品税がありました。これは主に贅沢品に課せられる税で、照明器具では一基に5灯以上のランプをもつ天井吊り下げ器具のシャンデリアが対象になっていました。
-
3-7スポットライト器具の種類と選び方スポットライトを浴びるという言葉があります。これは大勢の人の視線を集める、注目されるという意味になります。
-
3-84つの配光別スタンド器具スタンド器具(以下、スタンド)とは床や卓上に置いて使う器具のことで、前者をフロアスタンド(フロアランプと言う)、後者が卓上スタンド(テーブルランプとかデスクランプとも言う)になります。いずれも配線工事が不要で、近くにコンセントがあればどこにでも設置が可能なため使い勝手の良い照明器具です。
-
3-9ブラケットと呼ばれる壁付け器具壁に直付けされる器具を一般にブラケットと言います。別にウォールライトとかウォールスコンスなどと呼ばれることもあります。
-
3-10屋外用器具の種類屋外照明は道路、街路、広場などを安全な明るさにする目的で普及してきました。しかし今日ではそれに加えて夜の景観や雰囲気を高める照明が注目されています。
-
3-11景観照明(ライトアップ)用器具夜、歴史的な建造物や土木的価値のある橋梁などが暗闇から明るく浮かび上がる様はとてもドラマチックで新たな空間の魅力を引き出す照明として、近年クローズアップされています。このような照明は一般にライトアップと呼ばれ、夜の風景に彩りを添える効果として期待されています。
-
3-12間接照明とライン形LEDモジュール器具建築化照明とは建築の躯体に照明器具を内蔵して空間の明るさを得る手法です。様々な手法がありますがダウンライト照明が最も代表的な手法です。
-
3-13調光・調色の制御方法照明の明るさを変えることはものの見え方と空間の雰囲気を変えることにつながり、人々の行動心理に与える影響は大きいです。
-
3-14エネルギー消費効率の高いLEDランプLED照明が省エネになり電気代の節約になることは、今では周知のことと思います。
第4章 照明方式
-
4-1全般照明と局部照明全般照明と局部照明は照明方式の一部で、どちらの方式をとるかで空間の雰囲気は大きく変わります。
-
4-2タスク・アンビエント照明とはタスク・アンビエント照明は全般照明や局部照明と同じ照明方式の一部です。
-
4-3直接照明と間接照明直接照明は天井に設置されたダウンライトやスポットライト器具などによって作業面や見せたい対象(視対象)を直接照らすため、照明効率が高く省エネ照明に寄与します。しかし一方で影が生じやすく、照射角度や配光によって生じる陰翳は人の顔や立体物の見え方を変えて見せます。
-
4-4建築化照明と主な手法建築化照明については様々な手法があります。以前に「間接照明とライン形LEDモジュール」の項で一部触れましたが、今回は前回に説明していないものを含め10の手法を以下に紹介します。
第5章 照明の視覚心理・生理
-
5-1視覚のメカニズム目は光によってモノを見ることができます。モノが何故見えるのか?その原理を「目から光が出ていて、目を開けたときだけモノが見える」と説いた古代の哲学者がいました。
-
5-2目に優しい照明目を刺すようなギラつく光はその強さによって暴力的にもなり、眼を痛めます。日中の太陽光を直視すると危険です。
-
5-3照度と視力の関係私たち日本人は北欧や北米諸国の人に比べると明るさの好きな人種のようです。
-
5-4輝度と知覚効果輝度の高い光源や照明器具、窓明かりなどを直接目にすると、つい目を細めたり、まぶしすぎると手で光源を隠したりするような仕草をします。
-
5-5色温度と照度の心理効果心理は効果の度合によって体調に影響することから、人の状態や行動に関わるために建築やインテリアなどの設計業務で活用されています。
-
5-6光に関する脳の働き最近、照明の脳に与える影響が注目されています。