照明のことが分かる講座
2-3 蛍光ランプ、その進化とプロセス
いままで家庭やオフィス照明などで欠かせない 蛍光ランプ(熱陰極蛍光ランプ)は1935年アメリカの大手電気メーカであるGE(ゼネラルエレクトロニクス社)のインマンによって発明されました。蛍光ランプの発光原理はそれまでの白熱電球の温度放射とは全く異なる新しい放電発光で、これをルミネセンスと呼んでいます。 その仕組みを簡単に説明すると、フィラメントの熱で生じた熱電子が水銀原子にぶつかって紫外線を発生します。それが管の内側に塗布された蛍光体を刺激して光になるわけです。(図1、蛍光灯の発光原理)
光に熱を伴わないため冷光とも言われていますが、実際点灯した状態で管を触ると熱を持っており、フィラメント近くは触れないほど熱いです。
日本では1940年の法隆寺昭和大修理の一環として、壁画の模写に20Wの直管型蛍光灯が初めて使われたという記録が残っています。発明されてから僅か5年後(昭和15年)の出来事です。 初期の蛍光ランプは演色性もあまりよくなく、またランプ効率は30lm/w 前後で今日のものと比べると決して明るくはありませんでした。しかし法隆寺の模写に使われた蛍光灯は、そこに参加した人から聞いた話によると、明るく色も綺麗に見えていたそうです。
蛍光ランプの点灯には安定器と言う装置が欠かせません。安定器はおもにランプの点灯に必要なフィラメントの予熱と点灯後の過電流を阻止して安定的な光を維持する役割があります。 そのためランプ電流をランプに合わせて制御する必要があり、一つの安定器でいろいろな種類の蛍光ランプを点灯させることはできません。また安定器にはランプの点灯に必要な始動電圧を供給し、種類によって力率改善や調光などの付加機能もあります。
蛍光灯の点灯方式を大別すると、グロースタータ形、ラピッドスタート形、インバーター形があります。
グロースタータ形はグロー管で点灯させる方式です。安価なため住宅用照明を中心に普及しましたが、光にチラツキが生じたり、点灯するのにスイッチを入れて若干の時間がかかったりする、といったデメリットもあります。
ラピッドスタート形は読んで字のごとくランプを瞬時に点灯させることのできる方式です。オフィスや学校の教室のように多くの器具を一斉点灯するところで利用されています。
インバーター形は蛍光灯代替のLEDが普及し始める直前まで主流になっていました。これは高周波で点灯させることにより50、60ヘルツ共用で、瞬時点灯を可能にします。 これにより専用蛍光ランプとの組み合わせで100 lm/w を超える高いランプ効率を実現しています。さらにチラツキが無くなり、安定器も軽量ですむなどの特徴から広く普及しました。
2005年、わが国では蛍光ランプの年間製造量が5億本を超え、世界有数の蛍光灯大国になっています。日本人は何故この光が好きなのでしょうか。それには幾つかの理由が考えられます。
第1に蛍光ランプの電気代が安くランプ寿命が長い、という経済的特長にあると思います。それは資源の少ない我が国にとって大きな課題である、エネルギー有効利用について人々の関心の高さが影響していると考えられます。
第2は白熱電球では出せない白い光が日本の高温多湿の風土に適合していることです。光も夏の暑さを考えると特に白色や昼白色蛍光灯は何とも涼しげに感じられます。
投光照明用電球の明るさは光束より直下光度(cd、カンデラ)で確認します。光度を距離の二乗で割ることで局部的ではありますが最大照度が算出できます。例えば光の広がり15度で最大光度7000cdのPAR型電球の場合、5m直下の照度が幾らかと言えば、7000÷5の二乗で280ルクスになります。
第3に蛍光灯の柔らかな拡散光に関係します。この光は天井の低い日本の家屋に適しており、床面を含め部屋の隅々まで明るく見せる効果があります。さらに先人は行灯や明かり障子の柔らかな光の下で生活していたせいもあって、私たち現代人も明暗コントラストの効いた照明効果より柔らかな「光と影」の雰囲気に高い感受性があるのかも知れません。
装飾照明用電球はバルブの形状や色に様々な種類があります。なかでもバルブの形状が蝋燭の炎のような形をしたシャンデリア型電球(記号C―Conical円錐形の略)、または(記号F―Flame炎の略)と、それに幾つかの直径を持ったボール型電球(記号G)が良く使われています。 シャンデリア型電球はクラシックシャンデリアや燭台を模した照明器具によく合います。特にバルブが透明のタイプはフィラメントの輝きが直接見え、例えばクリスタルガラスに光が当たると、ガラスのカットによってきれいな虹が生じます。(写真3 装飾照明用電球)
- 図1 蛍光灯の発光原理
- 写真1 直管型蛍光灯器具の内部
(左端のソケットと右の安定器)
『照明のことが分かる講座』の目次
第1章 照明の基礎知識
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1-1光とは光には私たちの目に見える光と見えない光があります。太古の昔から人が見てきた光は太陽や星の光、そして火の光です。
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1-2照度のお話し照度とは光で照らされた場の明るさのことを言います。
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1-3光束と照度の関係一般照明用の白熱電球(普通電球とも呼ばれる)は40Wより60Wの方が明るいです。そのためW(ワット)数の高いほど「明るいランプ」と思われがちですが、例えば蛍光ランプの40Wは電球60WよりW数が低くとも数倍明るいです。 この例でもわかるようにW数は明るさを表す単位ではないのです。
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1-4照度の黄金比明るさ感は照度の高い低いだけではなく、照度対比によるところも大きいです。例えば写真1と写真2を見て下さい。
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1-5輝度とは街の明かりが届かない自然豊かな場所で、懐中電灯を夜空に向けて照らすと、まるでレーザービームのような一筋の光芒を見ることができます。
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1-6白色光源の色温度照明ではよく「白色光」と言う名称が使われます。太陽の光や青空光は白色光です。またキャンドルや白熱電球・蛍光ランプなどの人工光源も白色光を放ちます。
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1-7色温度を測定してみるとCIExy色度図(以下xy色度図)はCIE(国際照明委員会)によって承認された光色の表し方です。照明関係者だけでなく色彩の勉強をされている方にもおなじみの図表です。
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1-8演色性とはお店で見た肉や魚の赤身がおいしそうに見えたのに家で見たら少し違って見えた、という経験をされた方は少なくないと思います。
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1-9配光と配光分類一般照明用白熱電球(以下、普通電球)を点灯するとフィラメントを中心に四方八方へ360度にわたって光の放射していく様子がイメージできます。
第2章 光源の種類と特徴
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2-1白熱電球、その進化白熱電球は1878年アメリカのトーマス・エジソンによって発明された、と言われています。
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2-2豊かな種類を誇る白熱電球白熱電球を用途別に分類すると前回紹介したように一般照明用、投光照明用、装飾照明用に大別されます。
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2-3蛍光ランプ、その進化とプロセスいままで家庭やオフィス照明などで欠かせない 蛍光ランプ(熱陰極蛍光ランプ)は1935年アメリカの大手電気メーカであるGE(ゼネラルエレクトロニクス社)のインマンによって発明されました。
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2-4蛍光ランプの種類蛍光ランプを形状別に分類すると、おもに直管形、環形(丸形)、小型変形があります。
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2-5HIDランプの種類と性能HIDランプは高輝度放電ランプのことで「High Intensity Discharge Lamp」の頭文字をとった略称です。
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2-6LEDランプ、その進化プロセス今、照明=LED(発光ダイオード)と言われるほど、LEDがあらゆる空間の照明に注目されています。
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2-7LEDに関する用語の解説LEDに関する専門用語は多々ありますが、特にLED照明を理解するために必要な用語を整理して次に紹介いたします。
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2-8LED電球の種類LED電球(電球形LEDとも言われる)は白熱電球の代替になるLED光源で、口金の形状がE形(エジソンベース),B,GX53形のいずれかを備えたものを言います。
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2-9LED電球の選び方今日、一般照明用LED電球は多くの白熱電球用器具(以下、白熱灯)に使われています。そのなかで最近注目されているのが密閉対応型です。
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2-10直管形蛍光ランプ代替のLEDランプ直管LEDランプ(LED蛍光灯、直管形LEDなどともいわれる)とは直管形蛍光ランプの代替用途になるものです。
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2-11特殊照明用LEDランプ一般照明用のLEDランプ以外に特殊な用途を持ったLEDランプがあります。ここではその幾つかを紹介いたします。
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2-12有機ELと無機ELLED照明が普及しつつあるなかで、いまELが注目されています。ELはLEDの技術では難しいとされる、薄くてぎらつきのない面発光を特徴とする光源です。
第3章 LED照明器具の選び方
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3-1照明器具とその種類照明器具とは様々な素材を用いて光源とその点灯に必要な部品を安全に固定し保護したもので、電気的部分と光学的部分、および機械的部分からなります。
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3-2照明器具に使われる素材照明器具には様々な素材が使われていますが、その中でガラス、プラスチック、金属が3大素材と言われます。
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3-3日本の住宅照明に欠かせないシーリングライト1970年代、蛍光灯の普及によって日本の住宅照明には欠かせなくなった照明器具に大型のシーリングライト(以下、シーリングライト)があります。
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3-4ダウンライト器具の種類ダウンライトは天井に穴をあけて、そこに埋め込まれる器具です。したがって器具そのものの存在をあまり感じさせないで空間の明るさを得ることができます。
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3-5ダウンライトの選び方ダウンライトにはおもに全般照明用と局部照明用、壁面照明用の3種類があります。
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3-6ペンダントライト器具とは消費税が導入される前、個別消費税の一種で物品税がありました。これは主に贅沢品に課せられる税で、照明器具では一基に5灯以上のランプをもつ天井吊り下げ器具のシャンデリアが対象になっていました。
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3-7スポットライト器具の種類と選び方スポットライトを浴びるという言葉があります。これは大勢の人の視線を集める、注目されるという意味になります。
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3-84つの配光別スタンド器具スタンド器具(以下、スタンド)とは床や卓上に置いて使う器具のことで、前者をフロアスタンド(フロアランプと言う)、後者が卓上スタンド(テーブルランプとかデスクランプとも言う)になります。いずれも配線工事が不要で、近くにコンセントがあればどこにでも設置が可能なため使い勝手の良い照明器具です。
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3-9ブラケットと呼ばれる壁付け器具壁に直付けされる器具を一般にブラケットと言います。別にウォールライトとかウォールスコンスなどと呼ばれることもあります。
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3-10屋外用器具の種類屋外照明は道路、街路、広場などを安全な明るさにする目的で普及してきました。しかし今日ではそれに加えて夜の景観や雰囲気を高める照明が注目されています。
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3-11景観照明(ライトアップ)用器具夜、歴史的な建造物や土木的価値のある橋梁などが暗闇から明るく浮かび上がる様はとてもドラマチックで新たな空間の魅力を引き出す照明として、近年クローズアップされています。このような照明は一般にライトアップと呼ばれ、夜の風景に彩りを添える効果として期待されています。
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3-12間接照明とライン形LEDモジュール器具建築化照明とは建築の躯体に照明器具を内蔵して空間の明るさを得る手法です。様々な手法がありますがダウンライト照明が最も代表的な手法です。
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3-13調光・調色の制御方法照明の明るさを変えることはものの見え方と空間の雰囲気を変えることにつながり、人々の行動心理に与える影響は大きいです。
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3-14エネルギー消費効率の高いLEDランプLED照明が省エネになり電気代の節約になることは、今では周知のことと思います。
第4章 照明方式
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4-1全般照明と局部照明全般照明と局部照明は照明方式の一部で、どちらの方式をとるかで空間の雰囲気は大きく変わります。
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4-2タスク・アンビエント照明とはタスク・アンビエント照明は全般照明や局部照明と同じ照明方式の一部です。
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4-3直接照明と間接照明直接照明は天井に設置されたダウンライトやスポットライト器具などによって作業面や見せたい対象(視対象)を直接照らすため、照明効率が高く省エネ照明に寄与します。しかし一方で影が生じやすく、照射角度や配光によって生じる陰翳は人の顔や立体物の見え方を変えて見せます。
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4-4建築化照明と主な手法建築化照明については様々な手法があります。以前に「間接照明とライン形LEDモジュール」の項で一部触れましたが、今回は前回に説明していないものを含め10の手法を以下に紹介します。
第5章 照明の視覚心理・生理
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5-1視覚のメカニズム目は光によってモノを見ることができます。モノが何故見えるのか?その原理を「目から光が出ていて、目を開けたときだけモノが見える」と説いた古代の哲学者がいました。
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5-2目に優しい照明目を刺すようなギラつく光はその強さによって暴力的にもなり、眼を痛めます。日中の太陽光を直視すると危険です。
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5-3照度と視力の関係私たち日本人は北欧や北米諸国の人に比べると明るさの好きな人種のようです。
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5-4輝度と知覚効果輝度の高い光源や照明器具、窓明かりなどを直接目にすると、つい目を細めたり、まぶしすぎると手で光源を隠したりするような仕草をします。
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5-5色温度と照度の心理効果心理は効果の度合によって体調に影響することから、人の状態や行動に関わるために建築やインテリアなどの設計業務で活用されています。
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5-6光に関する脳の働き最近、照明の脳に与える影響が注目されています。