遠心ポンプの実践講座
2-7 ポンプのライナリングとインペラリング
ライナリングはケーシングに取り付けられているリングで、インペラリングは羽根車に取り付けられているリングです。そして、ライナリングの内周とインペラリングの外周とで狭いすき間を形成し、還流量を少なくして効率の低下を抑えています。
すき間を流れる液の流速は高いので、すき間部は時間とともに摩耗します。仮に、両方のリングが付いていなくて、ケーシングと羽根車とで狭いすき間を形成していたとすると、摩耗した場合にはケーシングや羽根車そのものを交換する必要があります。 そうなればコスト高になるために、ライナリングとインペラリングをそれぞれ取り付けて、摩耗する部品はケーシングや羽根車ではなく、ライナリングとインペラリングに代用させて、コストを抑えているのです。 ただし、安価な汎用ポンプでは両方のリングが付いていないことが多く、産業用ポンプではライナリングだけが付いていることが多くあります。
それでは、このすき間からどれだけの還流量があるのでしょうか。計算式を表2-7-1に示します。すき間が狭いほど還流量は少なくなり、差圧の平方根に比例して増えます。この計算式は回転していない状態で、かつ、すき間部は同心であるとしたときに適用できます。 実際には双方は偏心しながら相対的に回転しているので、実際の還流量は計算値の2から3倍になります。
表2-7-1 すき間の還流量

ライナリングとインペラリングのクリアランスは、どの程度なのでしょうか。また、どのぐらい大きくなったら交換が必要になるのでしょうか。参考として、表2-7-2にAPI 610で規定しているクリアランスを示します。これらのクリアランスは新品のときの値で、DLYはクリアランス部の直径です。
表2-7-2 ライナリングとインペラリングのクリアランス-API
直径 DLY (mm) | 直径クリアランス (mm) |
---|---|
DLY<50 | 0.25 |
50≦DLY<65 | 0.28 |
65≦DLY<80 | 0.3 |
80≦DLY<90 | 0.33 |
90≦DLY<100 | 0.35 |
100≦DLY<115 | 0.38 |
115≦DLY<125 | 0.4 |
125≦DLY<150 | 0.43 |
150≦DLY<175 | 0.45 |
175≦DLY<200 | 0.48 |
200≦DLY<225 | 0.5 |
225≦DLY<250 | 0.53 |
250≦DLY<275 | 0.55 |
275≦DLY<300 | 0.58 |
300≦DLY<325 | 0.6 |
325≦DLY<350 | 0.63 |
350≦DLY<375 | 0.65 |
375≦DLY<400 | 0.68 |
400≦DLY<425 | 0.7 |
425≦DLY<450 | 0.73 |
450≦DLY<475 | 0.75 |
475≦DLY<500 | 0.78 |
500≦DLY<525 | 0.8 |
525≦DLY<550 | 0.83 |
550≦DLY<575 | 0.85 |
575≦DLY<600 | 0.88 |
600≦DLY<625 | 0.9 |
625≦DLY<650 | 0.95 |
交換の目安は、ポンプメーカから推奨値が提出されると思いますが、一般には、「ポンプの性能に支障のない限り、設計値の最大の2倍」が交換の目安になっています。クリアランスが大きくなるにしたがって、吐出し量や全揚程が低下するので、吐出し量や吐出し圧力が徐々に低下してきます。
ところで、ライナリングとインペラリングのクリアランスについて、十数年前にISO規格は、運転に支障がなく、かつ始動前に手回しができればいくらでもよいことに変更されました。そして、JIS規格も同じように変更になりました。そのため、このクリアランスの値はAPI 610を除き、公的な規格から消えてしまっています。
このクリアランスはポンプの性能に直接影響するので、いくらにするかは重要な問題です。APIのクリアランスはどのような場合でも、ライナリング内周とインペラリング外周が当たらないように大きくしています。 例えば、ねずみ鋳鉄など運転中に双方が軽く接触したとしても問題が起こらないので、このようなかじり難い材料のときは、ポンプメーカでは、APIのクリアランスより小さくして性能低下をできるだけ抑えています。表2-7-3にかじり難い材料のときのクリアランスを参考として示します。
以上、ライナリングとインペラリングのクリアランスについて説明しましたが、両者が付いていない場合でも、双方の形成するクリアランスについては同様です。
表2-7-2 ライナリングとインペラリングのクリアランス-API
直径 DLY (mm) | 直径クリアランス (mm) |
---|---|
DLY<50 | 0.18 |
50≦DLY<65 | 0.19 |
65≦DLY<80 | 0.2 |
80≦DLY<90 | 0.21 |
90≦DLY<100 | 0.22 |
100≦DLY<115 | 0.23 |
115≦DLY<125 | 0.24 |
125≦DLY<150 | 0.27 |
150≦DLY<175 | 0.31 |
175≦DLY<200 | 0.34 |
200≦DLY<225 | 0.38 |
225≦DLY<250 | 0.42 |
250≦DLY<275 | 0.48 |
『遠心ポンプの実践講座』の目次
第1章 ポンプの仕様
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1-1ポンプを発注するときに必要になる仕様ポンプを発注するに当たり、どのような仕様が必要になるのでしょうか。
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1-2ポンプ液の基本特性ここでは、ポンプ液の基本特性の主なものを取り上げて説明します。
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1-3スラリーが混入するポンプ液ここでいうスラリーとは、摩耗させる成分のことをいいます。スラリーが混入する液の場合、摩耗に対して強い構造のポンプを選定します。
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1-4高温のポンプ液ポンプの液が低温であれば、液が気化しないように注意します。
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1-5ポンプの材料ポンプは圧力容器の一つなので、圧力に耐える材料にする必要があります。
第2章 ポンプの構成部品と役割
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2-1ポンプを構成する部品遠心ポンプの主要な構成部品は、ケーシング、羽根車、主軸、軸受及び軸封です。
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2-2ポンプのケーシングボリュート形状ケーシングには吸込口及び吐出し口があり、吸込口から液を取り込み、吐出し口から液を送り出す役割があります。
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2-3ポンプのケーシングによるラジアルスラストケーシングのボリュート形状によって、羽根車に作用するラジアルスラストが変わるのですが、それでは、どのようにしてラジアルスラストが分かるので
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2-4ポンプのケーシングガスケットポンプは言うまでもありませんが、圧力容器の1つです。
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2-5ポンプの羽根車形式羽根車は主軸に固定された回転体の1つで、主軸と一体で回転します。そして、その回転によってポンプの液にエネルギーを与えます。
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2-6ポンプの羽根車によるアキシャルスラストポンプの運転中には、羽根車に半径方向に作用するラジアルスラストの他に、軸方向にアキシャルスラストが作用します。
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2-7ポンプのライナリングとインペラリングライナリングはケーシングに取り付けられているリングで、インペラリングは羽根車に取り付けられているリングです。
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2-8ポンプに使うグランドパッキングランドパッキンは、グランドパッキンと主軸の冷却及び潤滑のために、図2-8-1に示すように、フラッシング液を漏らしながら使用されます。
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2-9ポンプに使うメカニカルシールメカニカルシールもグランドパッキンと同様に、摺動部の冷却及び潤滑のために、フラッシング液が必要になります。
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2-10ポンプの軸受ハウジングと付属部品軸受ハウジングは、羽根車などの回転体の静的荷重と振動による動的荷重、羽根車に作用するラジアルスラストとアキシャルスラストなどを間接的に支え
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2-11ポンプのラジアル軸受とアキシャル軸受軸受はポンプが発生する荷重を支えるために必要になり、主軸及び軸受ハウジングに取り付けられます。
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2-12ポンプの軸受潤滑方式軸受の潤滑方式には、表2-12-1に示すように、グリス密封、グリス、オイルバス、オイルミスト、強制給油があります。
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2-13ポンプのオリフィスポンプそのものに付く部品ではないのですが、流量を調整するためにオリフィスという部品があります。
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2-14ポンプに使うサイクロンセパレータ研磨後の廃液に溜まった研磨粉の回収、食品の製造過程における原材料の分級、微粒子の分級及び分離、排ガスから発生した汚染物質の除去などに使用さ
第3章 ポンプの据付けと試運転
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3-1ポンプによる基礎の荷重ポンプから基礎にどのぐらいの荷重がかかるのでしょうか。その前にまず、どのような荷重があるのか考えてみます。
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3-2ポンプに作用する配管荷重による基礎の荷重次は、「3-1 ポンプによる基礎の荷重、表3-1-1 ポンプの基礎荷重」にある配管荷重及び配管モーメントについて説明します。
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3-3ポンプの据付け超大形のポンプやモータでない限り、ポンプとモータは図3-3-1に示すように、共通ベースに取り付けられた状態で現地に到着します。
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3-4ポンプの始動ポンプの据付けが完了しても、ポンプは始動できるわけではありません。始動する前に、横軸ポンプはポンプ内及び吸込配管内にある空気をすべて抜く必要
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3-5ポンプの回転方向の確認ポンプ内及び吸込配管内の空気抜きが終わり、ポンプの運転に必要になる冷却水などのユーティリティの供給を開始すれば、ポンプは始動できる状態にあります
第4章 ポンプの運転
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4-1ポンプの減速運転省エネルギーのために、ポンプはインバータやベルトを使って減速運転されることがあります。
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4-2ポンプの増速運転ポンプの駆動機が三相交流モータの場合、モータのスリップがないときのモータの同期速度Ncyは、電源の周波数をf、モータの極数をPとすると、Ncy=120
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4-3密閉管路内のポンプ運転ポンプが密閉管路の装置内で運転されている場合、液の温度上昇はどうなるのでしょうか。
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4-4ポンプへの空気の侵入防止ポンプや配管の内圧が大気圧力より低い場合、ポンプや配管内に空気が外部から侵入することがあります。
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4-5空気を含んだポンプの運転ポンプや配管内に空気が外部から侵入しないとしても、パルプ液や復水などのように、液そのものに空気が混入している場合はどうしたらよいでしょう
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4-6ポンプ吸込側のレジューサポンプや配管内に空気が外部から侵入しない対策、及び液そのものに空気が混入している場合の対策は必要なのですが、これらに加え、吸込配管内の上部
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4-7ポンプ吸込渦と初生キャビテーションポンプと配管の設置スペースの関係で、ポンプの吸込口に曲管が付いていることがあります。ポンプの吸込口直前に曲管が付いていると、図4-7-1に示すよ
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4-8ポンプの並列運転ポンプを2台以上使って、並列に設置して同時に運転する場合を並列運転と呼びます。ここでは、同じ性能のポンプを2台使った並列運転について説明します
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4-9ポンプの直列運転ポンプを2台以上使って、並列に設置して同時に運転する場合を並列運転と呼びます。ここでは、同じ性能のポンプを2台使った並列運転について説明し
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4-10ポンプのウォーミングと冷却水少しの時間も送液を止められない重要なポンプでは、予備機を設けると安心です。2台のポンプを並列で設置して、どちらか一方のポンプを運転します。
第5章 ポンプの保守点検と省エネルギー
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5-1ポンプの点検日常、ポンプの状態を点検することは重要なのですが、ポンプの台数が多いと大変です。
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5-2ポンプの修理、改造および取替え安価な汎用ポンプでない限り、ポンプは何度も修理して使用し続けます。
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5-3ポンプの省エネルギーの着眼点ポンプに限りませんが、省エネルギーと言うとインバータと言われるほどインバータが普及しています。
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5-4ポンプの省エネルギーの具体策「インペラカット」は、図5-4-1に示すように、羽根車の外周を旋盤で加工して、羽根車直径をD1からD2のように小さくすることを言います。
第6章 ポンプのトラブルと対策
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6-1ポンプトラブルの分類と原因分析ポンプでは予期しなくとも残念ながらトラブルが発生します。
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6-2ポンプトラブルの技術的原因ポンプを設計して製造するためには、設計技術、製造技術、購入技術、検査技術は必要ですが、顧客との窓口になる営業技術も大切です。
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6-3ポンプトラブルの人的原因技術的原因では、技術者が関与した技術を主体として原因を挙げています。
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6-4ポンプトラブルの経済的原因国内では昔、ポンプの売上げは経済成長率並みで、伸びは緩やかだが落ち込みはないと言われていました。
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6-5ポンプトラブルを減らすためのアプローチ家庭電化製品などでは、機器にトラブルが起こると、どのように対応したらよいか取扱説明書などに記載されています。
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6-6ポンプトラブルを減らすための日常の対応ポンプメーカの技術者は、日常煩雑な業務に当たっていると思います。そして、トラブルはある日突然に予告なく襲ってきます。