マシニングセンタの基礎講座
6-1 暖機運転
私たちは運動する前、準備運動を行い、血液の循環を良くし、身体を温めます(ほぐします)。一方、準備運動を行わず急に身体を動かすと、本来の運動能力を発揮できないばかりか、怪我の原因にもなります。マシニングセンタを使用する際も同じで、電源を入れて準備運動せず、すぐに加工を行うと、本来の運動性能で動くことができず加工精度が安定しません。工作機械の準備運動を「暖機運転」または「ならし運転」といいます。冬など寒い時期は朝一の暖機運転は必ず必要です。
暖機運転の目的は(1)主軸の熱変位を安定させる、(2)主軸頭やテーブルなど駆動部の運動精度を安定させる(構造体の熱変位を安定させる)、(3)切削油剤(クーラント)の温度を安定させることです。これらの3つが一定にすることで加工精度が安定します。
(1)主軸の熱変位を一定にする
主軸は回転すると、動力であるモータに電流が流れ、軸受のベアリングが回転するため、回転時間に比例して温度が上昇します。近年のマシニングセンタの主軸には冷却用の配管が内蔵されているものが多く、この配管に温度を一定に制御した油や水を循環させることで、主軸が一定の温度以上にならないようになっています。温度が上昇すると、主軸は膨張し、切込み方向(Z軸のマイナス方向)に伸びます。このため、暖機運転をせずに加工を行うと、加工中に主軸および軸受が温まることによって切込み深さが変化し、加工精度が安定しません。加工精度を安定させるには主軸を温め、主軸の伸びと振れが一定になるまで暖機運転を行うことが大切です。
(2)主軸頭やテーブルなど駆動部の運動精度を一定にする
マシニングセンタの電源を入れると、自動で潤滑油が駆動部の各部に供給されますが、電源を入れた直後は前回使用した際の潤滑油が駆動部に残存しています。暖機運転を一定時間行うことによって、残存する潤滑油を追い出し、新しい潤滑油を駆動部に供給し、潤滑油の温度を一定にすることが大切です。
(3)切削油剤(クーラント)の温度を一定にする
切削油剤の温度は加工精度に影響します。冬など寒い時期の夜間は工場内が氷点下になることもあるため、切削油タンクの切削油剤も冷えています。使用前には切削油剤を循環させ、切削油剤が一定の温度になるよう配慮することが大切です。切削油剤の残量は暖機運転前(循環前)に確認し、必要に応じて補充します。加工中に切削油剤を補充すると温度が変化し、加工精度が安定しません。
■暖機運転を行わず、すぐに加工した場合
■暖機運転を行い、加工した場合
暖機運転は経年劣化にも大きく影響し、暖機運転をしっかりと行うことによってマシニングセンタの寿命が延び、精度よく、長く使用することができます。暖機運転は面倒で、生産性を下げる要因の一つですが、計画的に実施することが大切です。
『マシニングセンタの基礎講座』の目次
第1章 マシニングセンタの基礎知識
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1-1マシニングセンタとは?私たちの身の回りには色々な「もの(モノ)」が溢れています。
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1-2NCフライス盤とマシニングセンタの違いボール盤や旋盤、フライス盤、研削盤などは人の手でハンドルを回し、操作する工作機械です。
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1-3マシニングセンタの基本的な構造私たちの人間は体幹を鍛えることによって運動能力を高めることができます。
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1-4マシニングセンタの構造と種類マシニングセンタは主軸の向きや構造、駆動する軸の数によって、(1)立て形、(2)横形、(3)門形、(4)5軸の4つに大別されます。
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1-5直線軸とは?(右手の法則その1)マシニングセンタは切削工具(主軸)や工作物の位置を座標値(NCプログラム)で指令して操作するため、マシニングセンタを操作する場合には座標値の軸となる座標系について知っておかなければいけません。
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1-6回転軸とは?(右手の法則その2)マシニングセンタはX軸、Y軸、Z軸の直線3軸によって工作物の面に対して直角や平行な加工(たとえば平面加工、溝加工、穴あけ加工など)を行うことはができますが、斜めや曲面の加工を行うことはできません。
第2章 マシニングセンタの装備
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2-1自動化の仕組み:ATC(オートマチック ツール チェンジャ、自動工具交換装置)ATCはAutomatic Tool Changerの頭文字を取った略称で、自動工具交換装置のことです。
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2-2自動化の仕組み:APC(オートマチック パレットチェンジャ、自動パレット交換装置)APCはAutomatic pallet Changerの頭文字を取った略称で、自動パレット交換装置のことです。
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2-3切りくず回収の仕組み:チップコンベア機械加工は工作物の不要な箇所を削り取り、目的の形状をつくる加工法です。削り取った箇所は切りくずとなって排出されるため、視点を変えると、機械加工は切りくずをつくっているといっても過言ではありません。
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2-4回転テーブルのしくみ回転テーブルは電子レンジや中華料理のテーブルのように円形で1軸の回転機能を持つテーブルです
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2-5ツーリングとは?ツーリングは主軸と切削工具を繋ぐインタフェイスですから、マシニングセンタの主軸との締結剛性、切削工具との締結剛性の両方が大切です。
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2-6ツーリング(シャンクの種類:BT、BBT、HSK、CAPTO)正面フライスやエンドミル、ドリルなど切削工具は工作機械(マシニングセンタ)の主軸に直接取り付けることはできず、ツーリングを介して主軸に取り付け付けます。
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2-7ツーリング(ホルダの種類)ツーリングは主軸と切削工具を繋ぐインタフェイスですから、マシニングセンタの主軸との締結剛性、切削工具との締結剛性の両方が大切です。
第3章 マシニングセンタを動かすソフトウエア
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3-1NCプログラム(インクレメンタルとアブソリュート)マシニングセンタを動かすためのプログラムをNCプログラムといいます
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3-2NCプログラム(機械原点とワーク原点)マシニングセンタを自動で動かすためにはNCプログラムを作成する必要があります
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3-3工具長補正と工具径補正マシニングセンタは自動工具交換機能(ATC)を備え、正面フライスやエンドミル、ドリル、タップなど加工目的に応じた色々な切削工具を使い分けながら加工を進めます。
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3-4NCプログラムの構成図にNCプログラムの例を示します。NCプログラムの先頭と最後には「%」を入力します。
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3-5NCプログラムの各種機能マシニングセンタなどNC工作機械を動かすためのプログラムを「NCプログラム」といいます。
第4章 マシニングセンタの要素技術
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4-1主軸の駆動方式マシニングセンタは切削工具(刃物)を取り付けた主軸を高速に回転させることによって工作物を削ります.
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4-2主軸の軸受マシニングセンタの主軸の性能は主軸を支える軸受が大きく影響します
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4-3直線運動の駆動方式マシニングセンタのテーブル,サドル,コラム,主軸頭の運動部の駆動方式は主として,(1)ACサーボモータとボールねじの組み合わせと,(2)リニアモータの2種類に大別されます.
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4-4案内方式の種類(すべり案内,転がり案内,静圧案内)マシニングセンタのテーブル,サドル,コラム,主軸頭などの運動部の案内方式は主として?すべり案内,?転がり案内,?静圧案内の3種類があります.
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4-5構造の空間精度を向上させる「きさげ加工」マシニングセンタの本体構造であるベッド(土台)とコラム(支柱)は多くの場合,ねじ(ボルト)で締結されて固定されています.
第5章 マシニングセンタの特性と関連知識
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5-1主軸の性能(基底回転数)マシニングセンタのカタログや取扱説明書を見ると色々な細目について記載されています.
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5-2運動軸の制御方式近年のマシニングセンタは0.001mmや0.0001mmの単位まで座標値を指令することができますが,指令した座標値と実際の座標値がホントに一致しているのか疑問に思ったことはないでしょうか?
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5-3象限突起とスティックスリップマシニングセンタで円を加工すると,象限が変わる際にボコッと小さな突起が発生することがあります.
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5-4加速度と加加速度主軸頭やテーブルなど運動体の切削送り速度が速いほど加工時間が短くなるため生産性が向上します.切削送り速度の最高速度はマシニングセンタに求められる重要な性能で,切削送り速度が速いほど「俊敏性が良い」と表現されます.
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5-5母性原理マシニングセンタは高速に回転する切削工具で,工作物の不要な部分を除去し,所望の形状を創製する工作機械です.
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5-6地耐力家を建てるとき,地面にコンクリートの基礎をつくります.基礎は家の重みを均一に分散さえることによって,地面が沈下し,家が傾かないようにするための働きをします.
第6章 マシニングセンタを使用する際の基礎知識
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6-1暖機運転私たちは運動する前,準備運動を行い,血液の循環を良くし,身体を温めます(ほぐします).一方,準備運動を行わず急に身体を動かすと,本来の運動能力を発揮できないばかりか,怪我の原因にもなります.
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6-2荒加工,中仕上げ加工,仕上げ加工機械加工(工作機械を使った加工)は図面に指示された範囲内に寸法精度(寸法許容差),表面粗さ,幾何精度(平面度,直角度,平行度,同心度など)を仕上げなければいけません.量産加工では加工精度の安定性(バラツキが小さいこと)も必要です.
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6-3潤滑油の種類と性能マシニングセンタは電源を入れると,ボールねじや各部(テーブル,サドル,コラム,主軸頭)の摺動面(すべり面)に自動で潤滑油が供給される仕組みになっています.
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6-4切削油剤の役割と求められる性能機械加工は切削工具で金属(工作物)の不要な部分を切りくずとして除去しますが,切りくずには大きな変形が生じます.
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6-5切削油剤の種類その1(不水溶性切削油剤)切削油剤の種類は原液のまま使用する「不水溶性切削油剤」と,水に希釈して使用する「水溶性切削油剤」の2つに大別されます.
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6-6切削油剤の種類その2(水溶性切削油剤)水溶性切削油剤は水に希釈して使用するため冷却性に優れ,発火の危険性がなく,無人・自動運転に適しています.
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6-7水溶性切削油剤の管理夏の暑い時期になると生産現場に切削油剤特有の匂いが漂うことがあります.この匂いは水溶性切削油剤に含まれる添加剤が微生物(バクテリア)の栄養源になり,水溶性切削油剤が劣化・腐敗することによって生じます.