空調設備の基礎講座

私たちは、室内外の状況変化に応じて温度や湿度などを調節するために、暖房、冷房、換気などの「空調設備」を使用します。本連載では、空調設備の役割・目的から各種設備の特徴まで、快適に過ごすために知っておくべき基本的な事項を紹介していきます。
第6章 個別暖房と直接暖房

6-5 放射暖房の特徴

放射熱はどのように伝わるか

低温放射、高温放射暖房といった放射暖房に共通して大前提として覚えておきたいことがあります。熱の伝わり方には「伝導」、「対流」、「放射」の3種類があることは本講座で学んだので復習になりますが、放射暖房の熱の伝わり方は、伝導や対流といった熱の伝わり方とは違うということです。 

伝導や対流は物質を介して熱が伝わりますが、たとえば宇宙空間を通って伝わる太陽の熱(日射)は、物質のない真空の空間でも伝わる電磁波です。このことで分かるように、伝導や対流による暖房は放熱器と人の間に障害物があっても熱は人に伝わりますが、放射による暖房の場合は放熱器と人の間に障害物があると放射熱は遮られます。反対に遮るものがなければ放射熱は効果的に遠くまで届くので、体育館や工場といった大空間で利用できるといった利点もあります。

低温放射暖房とは

低温放射暖房はボイラから温水の供給を受けて、床や壁などに埋め込んだ配管に低音の温水を流して、放熱器からの放射熱で暖房する方法です。放熱器は温水コイルを埋め込んでユニット化された放射パネルがよく使われます。

たとえば低温放射暖房の床暖房の場合、床の表面温度は30℃程度に設定して、足下からじんわりと暖めます。前述したように低温放射暖房は空気を直接暖めるものではありません。放射熱で空間を包む天井、壁、床などの表面温度を高くすることで、じんわりと空間内の空気が暖められて暖房効果を得ます。天井、壁、床の表面温度が上がった結果として、厳密にいえば緩やかな自然対流も発生しますが、空気を直接暖める対流暖房と比べると空気を強制循環させないので、埃などを巻き上げて空気を汚すリスクは少なく、天井の高い空間でも温度分布にムラの少ない快適性の高さが特徴といえます。また低温放射のため、放熱器に直接触れたとしてもやけどの心配がなく、騒音もなく、空気を直接加熱しないので不必要に空気を乾燥させないため、風邪などの感染のリスクも軽減します。このような特徴から、低温放射暖房は老人ホーム、病院、福祉施設、保育園、幼稚園など、大人から子供まで使う施設に最適な暖房方法といえます。

高温放射暖房とは

高温放射暖房は低温放射暖房よりも温度の高い高温水や蒸気を熱媒にして、天井や壁の放射パネルからの放射熱で暖房する方法です。

大空間の空気を直接、対流暖房で暖めるようとすると、膨大なエネルギーが必要になりますが、前述した放射熱の伝わり方を利用すれば、実際の室温以上にそこにいる人に暖かさを感じさせることができます。

高温放射暖房は低温放射暖房と同様に空間を包む天井、壁、床の表面温度を上げる、あるいは人の体の表面温度を上げることで暖房効果を発揮します。また、放射熱の伝わり方は、気密性がそれほど高くない空間の暖房に適しているといえます。高温になる放熱器は人の手の届かない天井や壁の高い位置などに設置できるので、特に体育館や工場などのような気密性がそれほど高くない大空間の建物には高温放射暖房が効果的といえます。

執筆: イラストレーター・ライター 菊地至

『空調設備の基礎講座』の目次

第1章 空調設備を学ぶ前に

第2章 空調方式

第3章 熱源と主要機器

第4章 熱搬送設備

第5章 空調設備と省エネ

第6章 個別暖房と直接暖房

第7章 換気設備

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