工具の通販モノタロウ 空調・電設資材 空調設備の基礎講座 自然冷媒とフロン類の特徴

空調設備の基礎講座

私たちは、室内外の状況変化に応じて温度や湿度などを調節するために、暖房、冷房、換気などの「空調設備」を使用します。本連載では、空調設備の役割・目的から各種設備の特徴まで、快適に過ごすために知っておくべき基本的な事項を紹介していきます。
第3章 熱源と主要機器

3-2 自然冷媒とフロン類の特徴

物質を冷やす原理

川にスイカを浮かべて冷やしたり、雪深い地域では雪の中に野菜を保存するなどは昔から行われている自然を利用した食べ物の冷却方法です。ある物質を冷やすためには、その物質よりも温度の低い物質を接触させて熱交換することで、低温側の物質に熱が移って高温側の物質は冷やされます。この熱の移動は単純明快なことですが、物質を冷やすためには欠かせない大原則です。

夏の暑い盛りに涼を得るために滝を見学に行った経験のある方もいるかもしれません。大きな滝から勢いよく流れ落ちる水と、辺り一面に広がる水しぶきは見るからに壮観で涼しげです。見た目の涼しさだけでなく、滝からのミストシャワー(霧状の水)には実際に周囲の空気の温度を下げる効果があります。その冷却の原理は水が蒸発するとき周囲から熱を奪う気化熱によるもので、例えば汗が体表面を冷やす作用や、打ち水が周りの空気を冷やす作用と同様の原理です。

図1

滝のミストシャワーは天然の空調設備ともいえますが、人がつくる空調設備でも物質を冷やすために蒸発を利用します。空調設備では効率よく熱交換するために冷媒という物質を蒸発、凝縮させることで冷熱や温熱をつくり、最終的には空気を冷やしたり暖めたりしますが、そのしくみを解説する前に冷媒の役割や種類をざっくりと把握しておきましょう。

一般住宅で見られるルームエアコンや冷蔵庫など、物質を冷やす機器には冷媒が使われています。冷媒の役割を簡単に説明すると熱の運搬係です。冷媒の種類を大きく分けるとフロン類と自然冷媒に分けることができます。

フロン類

フロン類は無色、無臭で、多くは不燃性で安定して使用できるなどから広く普及しています。水素、フッ素、炭素などから人工的につくられる冷媒ガスで、一般にはフロンガスといった方が分かりやすいかもしれません。

フロン類の種類には特定フロン(CFC)、指定フロン(HCFC)、代替フロン(HFC)があります。例えば指定フロン(HCFC)は、Hydro:水素、Chloro:塩素、Fluoro:フッ素、 Carbon:炭素で構成される化合物であることを意味します。

特定フロンや指定フロンは温室効果ガスやオゾン層破壊など、地球環境破壊の観点から法的に生産中止、回収されていく傾向にあるフロン類です。現在流通が規制されず、かつ、広く普及しているのは代替フロンです。

種類 代表的な冷媒 特徴
特定フロン
クロロフルオロカーボン
CFC:Chloro Fluoro Carbon
R11、R12、R113、R114、R115など オゾン層破壊の可能性が高く、地球温暖化係数(※)も高い化合物。1996年に全廃。
指定フロン
ハイドロクロロフルオロカーボン
HCFC:Hydro Chloro Fluoro Carbon
R22、R123、R141b、R142b、R225など オゾン層破壊の可能性は比較的小さいが、地球温暖化係数は高い。2020年に全廃予定。
代替フロン
ハイドロフルオロカーボン
HFC:Hydro Fluoro Carbon
R32、R125、R134a、R152a、R404A、R407C、R410Aなど 塩素を含まず、オゾン層は破壊しないが、地球温暖化係数は高い。現在、広く普及している冷媒。

(※)地球温暖化係数:二酸化炭素(CO2)を基準として二酸化炭素の何倍の温室効果の程度であるかを示す値のこと。



R11、R12、R22など、かつて主流だったフロン類の流通は少なくなりましたが、倉庫などに眠っている古い冷蔵庫やエアコンなどを処分するときはフロンガスが空気中に放出しないように取り扱う必要があります。

空調設備などの各機器は、冷媒の歴史とともに進化してきました。より高いエネルギー効率や環境への対応を求めて冷媒は進化し、それに応じて機器も性能を向上させてきました。

近年、新冷媒ともいわれるR32などは代替フロンの一種です。同じ代替フロンで広く普及しているR410AはR32とR125の異種混合冷媒ですが、R32は単一冷媒です。単一冷媒なので従来のガス交換ではなく追加充填できるなど、冷媒ガスの取り扱いが比較的容易な利点があります。加えてオゾン層を破壊する恐れがなく、エネルギー効率も高いなどからR32はR410Aにかわる冷媒として現在、主流になりつつあります。ただし、R32は微燃性があるので、燃焼機器や可燃物を近くに置かないなどの配慮は当然必要になります。

自然冷媒

自然冷媒とは人工的につくったものではなく、元々、自然界にある物質を冷媒としたものです。代表的なものはアンモニア(NH3)、二酸化炭素(CO2)、水(H2O)などです。自然界にあるものなので、前述したフロン類に比べると環境にやさしいのが特徴ですが、アンモニアなどは可燃性があり、人体への毒性や爆発の危険性も考えられるので自然冷媒が安全であるとは限りません。

種類 特徴
アンモニア(NH3) 毒性や可燃性があるため取り扱いは難しいが、使用できる温度帯が幅広く、冷媒としての基本的な性能は高い。空調、冷却、冷凍などさまざまな用途で使用される。
二酸化炭素(CO2) 毒性や可燃性がなく、環境にやさしい。中間の温度帯が抜けて高い温度と低い温度が取り出せる冷媒。給湯、加熱、乾燥、冷凍などで使用される。
水(H2O) 毒性や可燃性がなく、環境にやさしい。使用できる温度帯の反は狭いが、空調、冷却の用途などで使用される。


自然冷媒の中でもアンモニアは冷媒としての歴史が古く、フロン類が登場する1930年代より70年ほど前の1860年代からフランスやアメリカで冷凍装置が開発されて実用化されています。アンモニア冷媒は爆発の危険性や人体への毒性などのリスクはあるものの、放出しても地球環境にさほど悪影響がないことから近年、見直される傾向にあります。

二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)といった温室効果ガスは元々自然界に存在するものですが、そのバランスが大きく崩れると一般的には地球温暖化といわれる現象を引き起こすといわれます。

自然冷媒の中の二酸化炭素も温室効果ガスの一つではありますが、前述したように自然界に元々あるものなので、地球に与える温室効果は想定の範囲内の微々たるものですが、代替フロンは二酸化炭素の数百?数千倍の地球温暖化係数といわれる温室効果ガスです。つまり、現在流通している比較的環境にやさしいとされる新冷媒を含む代替フロンは、オゾン層こそ破壊しませんが、地球温暖化という観点では二酸化炭素よりはるかに悪影響とされる温室効果ガスです。

近年、都市部が異常な高温になるヒートアイランド現象や地球温暖化などの影響もあって、環境問題への関心がいっそう高まる気運の中、自然冷媒に対応するエネルギー効率の高い機器も開発されているため、定期的な管理や冷媒漏れなどの安全対策を万全にして、現在主流の代替フロンから自然冷媒へ移行する動きが活発化していく傾向にあります。

執筆: イラストレーター・ライター 菊地至

『空調設備の基礎講座』の目次

第1章 空調設備を学ぶ前に

第2章 空調方式

第3章 熱源と主要機器

第4章 熱搬送設備

第5章 空調設備と省エネ

第6章 個別暖房と直接暖房

第7章 換気設備

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