機械要素の基礎講座
1-15 歯車の作り方~成形法
複雑な歯車の形状はどのように作られているのでしょうか。その昔、木製の簡単な歯車は手工具で加工をしていました。その後、歯車が金属製になり、かつ理論的に効率良くかみ合う歯車の形状の研究が進み、サイクロイドやインボリュートなど複雑な歯車形状が導かれると、それを製造するための工作機械が必要になります。18世紀のはじめ頃、当時の精密機械の代表は時計でした。正確に時を刻むためには、そこに用いられる歯車も正確に製造される必要があり、歯車を製造する工作機械が登場しました。当初は一般的な機械加工に用いられるフライス盤に歯車を切り出すための刃物を取り付けて製造していましたが、その後、歯車を製造するための専用工作機械が登場します。
切削加工で歯車を製造するためには、まずはじめにブランクとよばれる円筒状の材料を用意します。この材料の中心部には歯車の直径に応じた軸穴をあけます。ブランクの直径を適切な大きさにするためには旋盤などの工作機械で外径の切削加工を行いますが、大型の歯車で軽量化のための空間があるような形状のものは、鋳造などで製造された部品を溶接で接合するなどして成形します。
円筒状のブランクから歯車を切削していくことを考えたとき、歯を一枚ずつ成形していくか、全体的に少しずつ成形していくかなどが考えられます。ここではフライスやバイトなどの切削工具を用いて、ブランクに歯溝を1つずつ切削していく加工を成形法を紹介します。
成形法でインボリュート歯車を1枚ずつ加工するためには、インボリュート形状をした刃物であるインボリュートフライスを使用します。ブランクを横方向に水平の位置で回転させながら刃物をあてるものを横フライス盤、ブランクを縦方向に垂直の位置で回転させながら刃物をあてるものを縦フライス盤といいます。基本的な歯車の場合、工作物であるブランクと刃物は直角に交わるような位置関係で加工を進めますが、はすば歯車などのように歯すじが軸に対して垂直でないような角度を持つ歯車の加工では、その角度の加工ができる位置で加工を進めます。
成形法による歯切りは歯を一枚ずつ加工していくため、一枚を加工し終えたら次の歯を加工するために、刃物を適切な位置に移動させなければなりません。汎用のフライス盤でこの作業をするためには、割出し台とよばれる台を使用して歯切りの位置決めを行います。この操作に手間がかかるため、生産性の面では次に紹介する創成法の方が優れています。

インボリュート歯車による成形法
『機械要素の基礎講座』の目次
第1章 歯車
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1-1歯車のはたらき歯車は機械の運動に関係する代表的な機械要素です。何か動くものを作ろうとするときには、必ずと言ってよいほど歯車が使用されます。
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1-2歯車の歯形歯車の歴史は古く、木製の車の外周に歯のようなものをつけて、水汲み装置などに使われていたのは、紀元前からとされています。
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1-3歯車のピッチとモジュール歯車を滑らかにかみ合わせるためには、インボリュート曲線が用いられていることは説明しましたが、歯形全体の形状のイメージはもてたでしょうか。
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1-4歯車の各部名称車にはピッチやモジュールの他にもさまざまな各部名称があり、歯車のかみ合いを考えるときに重要となります。
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1-5標準平歯車の特長と寸法計算歯車にはさまざまな種類がありますが、代表的で基本形となるものが標準平歯車です。
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1-6歯車の速度伝達比歯車は実際の工業の場面では一組で用いられることは少なく、複数個を順番にかみ合わせて動力や速度を伝達することが多くあり、これを歯車列といいます。
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1-7二軸が平行な歯車の特長と種類これまで紹介してきた歯車は、歯の山の方向である歯すじが歯車の回転軸に対して平行で直線状である平歯車であり、一般的な形状の歯車として動力伝達用に幅広く用いられています。
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1-8二軸が交わる歯車の特長と種類歯車には回転を伝達する二軸が交わる種類もあります。かさ歯車は傘の形状に似た円すい形の歯車であり、べべルギアともよばれます。
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1-9減速歯車装置のはたらき機械の複雑な動きの原動力は回転運動であることが多く、その回転速度や回転力を変換するために歯車が用いられます。
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1-10増速歯車装置のはたらき歯車は多くの場合、減速歯車装置として使われますが、増速歯車装置として使われることもあります。
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1-11差動歯車装置のはたらき歯車は減速装置や増速装置のほかにも、さまざまな活用法があります。差動歯車装置は、2つ以上の運動の和や差を検出して、1つの運動にして出力する歯車列であり、古くは古代中国に伝わる仙人が常に南を示す指南車が知られています。
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1-12遊星歯車装置のはたらき遊星歯車装置は、太陽のまわりを惑星が回転するように、一組の互いにかみ合う歯車において、二枚の歯車がそれぞれ回転すると同時に、一方の歯車が他方の歯車の軸を中心として公転するものです。
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1-13歯車の強度設計(1) 歯の曲げ強さ歯車は高速で回転しながら大きな動力を伝達する機械要素です。もし、高速で大きな動力を伝達している歯車が途中で割れるようなことがあれば大事故につながってしまいます。
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1-14歯車の強度設計(2)歯の歯面強さ歯車の強度設計にはルイスの式のほか、歯の歯面強さの視点から導かれた関係式があります。
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1-15歯車の作り方~成形法複雑な歯車の形状はどのように作られているのでしょうか。その昔、木製の簡単な歯車は手工具で加工をしていました
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1-16歯車の作り方~創成法歯車の歯を一枚ずつ成形法に対して、歯を全体的に少しずつ成形する工作法を創成法といいます。
第2章 ベルトとチェーン
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2-1ベルト・チェーンのはたらき歯車の強度設計1 歯の曲げ強さ
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2-2ベルトの種類ベルトは断面形状や材質の違いなどによって分類できます。
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2-3ベルトの選定ベルトの速度伝達比は歯車と同様に考えることができます。
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2-4チェーンの種類ベルトの速度伝達比は歯車と同様に考えることができます。
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2-5チェーンの選定チェーンの速度伝達比も歯車やベルトと同様に考えることができます。
第3章 ばね
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3-1ばねのはたらき代表的な機械要素であるねじや歯車と同じように、ばねも私たちの身のまわりでたくさん使われています。ばねは本格的な機械の内部のみならず、洗濯ばさみやノック式のボールペン、乾電池の留め具など、日用品の中にも数多く見つけることができます。
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3-2ばねの歴史ばねの歴史は何をばねと見なすかによって異なりますが、古代人が動物を捕獲するために木の復元力を利用して作った罠や、狩猟・採集に用いられた木で作られた弓矢などがばねの起源と言えるでしょう。
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3-3ばねの物理ばねの歴史は何をばねと見なすかによって異なりますが、古代人が動物を捕獲するために木の復元力を利用して作った罠や、狩猟・採集に用いられた木で作られた弓矢などがばねの起源と言えるでしょう。
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3-4圧縮コイルばねの特徴と種類圧縮コイルばねは、主として圧縮荷重を受けて弾性エネルギーを蓄えるコイルばねです。
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3-5引張コイルばねの特徴と種類圧縮コイルばねは、主として圧縮荷重を受けて弾性エネルギーを蓄えるコイルばねです。
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3-6ねじりコイルばねの特徴と種類ねじりコイルばねは、コイルの中心軸まわりにねじりモーメントを受けるコイルばねです。
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3-7渦巻きばねの特徴と種類渦巻きばねは平面内で渦巻形をしているばねであり、コイル同士が接触する接触型渦巻ばねとコイル同士が離れている非接触型渦巻ばねとがあります。
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3-8ばねに使用される材料冷間成形によって製造されるばね用鋼線のうち、代表的なものは硬鋼線とピアノ線です。
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3-9コイルばねの成形コイルばねは線材を精密かつ高速でコイル状に成形する必要がありますが、具体的にどのような工程でコイリングされているのでしょうか。