機械要素の基礎講座
1-6 歯車の速度伝達比
歯車は実際の工業の場面では一組で用いられることは少なく、複数個を順番にかみ合わせて動力や速度を伝達することが多くあり、これを歯車列といいます。ここでは前項1-5で紹介した歯車の速度伝達比について、複数の歯車がかみ合う場合の例などを示しながら、もう少し詳しく説明していきます。
回転を伝える側の駆動歯車の回転速度をn1[min-1]、歯数をz1[枚]、ピッチ円直径をd1[mm]、回転を伝えられる側の被動歯車の回転速度をn2[min-1]、歯数をz2[枚]、ピッチ円直径をd2[mm]とすると、 速度伝達比iは次式で表されます。なお、ここで回転速度の単位[min-1]は一分間あたりの回転数を表します。これは[rpm]と表示されることもあります。
i=n1/n2=d2/d1=mz2/mz1=z2/z1
また、回転を伝えられる側の被動歯車がもう一枚あった場合には、その歯車の回転速度をn3[min-1]、歯数をz3[枚]、ピッチ円直径をd3[mm]として、速度伝達比iは次式で表されます。
i=n1/n3=n1/n2 ・n2/n3=z2/z1 ・z3/z2=z3/z1
ここで、この式が意味していることを考えてみましょう。もし、3枚の歯車の寸法がすべて等しい場合には速度伝達比が1となるため、1枚目の歯車と2枚目の回転速度は等しくなり、2枚目と3枚目の回転速度も等しくなります。 ここで回転方向は、1枚目と2枚目では逆回転、2枚目と3枚目では逆回転となるため、1枚目と3枚目の回転方向は等しくなります。このように、少し離れたところに同じ方向の回転を伝えたいような場合には複数の歯車を奇数枚、逆方向の回転を伝えたいような場合には複数の歯車を偶数枚使用した歯車列を使用します。 なお、この式を見ると、速度伝達比は1枚目と3枚目の歯車のみで決まり、間にある遊び車とよばれる歯車の歯数には依存しないことがわかります。
歯車列を利用して回転速度を変えたい場合には、歯のモジュールが等しく、ピッチ円直径や歯数が異なる歯車をかみ合わせます。ピッチ円直径が小さく、歯数が少ない歯車を駆動歯車、ピッチ円直径が大きく、歯数が多い歯車を被動歯車とした場合には、速度伝達比は1より大きくなり、これを減速装置といいます。 一方、ピッチ円直径が大きく、歯数が多い歯車を駆動歯車、ピッチ円直径が小さく、歯数が少ない歯車を被動歯車とした場合には、速度伝達比は1より小さく、これを増速装置といいます。一般的な機械では、多くの場合、歯車列は減速装置として用いられます。
計算例
図に示すような、歯数が20枚、30枚、40枚の歯車列において、歯数が20枚の歯車を駆動歯車として一分間に800回転させたとき、歯数が40枚の歯車の回転速度を求めなさい。
[解答]
はじめに、z1=20、z3=40として、速度伝達比を求めます。
i=z3/z1=40/20=2
次に、i= n1/n3を変形した式にn1=800、i=2を代入して、被動歯車の回転速度n3 を求めます。
n3=n1/i=800/2=400[min-1]
先にも述べた通り、この計算に遊び車の歯数は関係しないことがわかります。

図1
『機械要素の基礎講座』の目次
第1章 歯車
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1-1歯車のはたらき歯車は機械の運動に関係する代表的な機械要素です。何か動くものを作ろうとするときには、必ずと言ってよいほど歯車が使用されます。
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1-2歯車の歯形歯車の歴史は古く、木製の車の外周に歯のようなものをつけて、水汲み装置などに使われていたのは、紀元前からとされています。
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1-3歯車のピッチとモジュール歯車を滑らかにかみ合わせるためには、インボリュート曲線が用いられていることは説明しましたが、歯形全体の形状のイメージはもてたでしょうか。
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1-4歯車の各部名称車にはピッチやモジュールの他にもさまざまな各部名称があり、歯車のかみ合いを考えるときに重要となります。
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1-5標準平歯車の特長と寸法計算歯車にはさまざまな種類がありますが、代表的で基本形となるものが標準平歯車です。
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1-6歯車の速度伝達比歯車は実際の工業の場面では一組で用いられることは少なく、複数個を順番にかみ合わせて動力や速度を伝達することが多くあり、これを歯車列といいます。
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1-7二軸が平行な歯車の特長と種類これまで紹介してきた歯車は、歯の山の方向である歯すじが歯車の回転軸に対して平行で直線状である平歯車であり、一般的な形状の歯車として動力伝達用に幅広く用いられています。
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1-8二軸が交わる歯車の特長と種類歯車には回転を伝達する二軸が交わる種類もあります。かさ歯車は傘の形状に似た円すい形の歯車であり、べべルギアともよばれます。
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1-9減速歯車装置のはたらき機械の複雑な動きの原動力は回転運動であることが多く、その回転速度や回転力を変換するために歯車が用いられます。
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1-10増速歯車装置のはたらき歯車は多くの場合、減速歯車装置として使われますが、増速歯車装置として使われることもあります。
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1-11差動歯車装置のはたらき歯車は減速装置や増速装置のほかにも、さまざまな活用法があります。差動歯車装置は、2つ以上の運動の和や差を検出して、1つの運動にして出力する歯車列であり、古くは古代中国に伝わる仙人が常に南を示す指南車が知られています。
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1-12遊星歯車装置のはたらき遊星歯車装置は、太陽のまわりを惑星が回転するように、一組の互いにかみ合う歯車において、二枚の歯車がそれぞれ回転すると同時に、一方の歯車が他方の歯車の軸を中心として公転するものです。
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1-13歯車の強度設計(1) 歯の曲げ強さ歯車は高速で回転しながら大きな動力を伝達する機械要素です。もし、高速で大きな動力を伝達している歯車が途中で割れるようなことがあれば大事故につながってしまいます。
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1-14歯車の強度設計(2)歯の歯面強さ歯車の強度設計にはルイスの式のほか、歯の歯面強さの視点から導かれた関係式があります。
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1-15歯車の作り方~成形法複雑な歯車の形状はどのように作られているのでしょうか。その昔、木製の簡単な歯車は手工具で加工をしていました
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1-16歯車の作り方~創成法歯車の歯を一枚ずつ成形法に対して、歯を全体的に少しずつ成形する工作法を創成法といいます。
第2章 ベルトとチェーン
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2-1ベルト・チェーンのはたらき歯車の強度設計1 歯の曲げ強さ
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2-2ベルトの種類ベルトは断面形状や材質の違いなどによって分類できます。
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2-3ベルトの選定ベルトの速度伝達比は歯車と同様に考えることができます。
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2-4チェーンの種類ベルトの速度伝達比は歯車と同様に考えることができます。
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2-5チェーンの選定チェーンの速度伝達比も歯車やベルトと同様に考えることができます。
第3章 ばね
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3-1ばねのはたらき代表的な機械要素であるねじや歯車と同じように、ばねも私たちの身のまわりでたくさん使われています。ばねは本格的な機械の内部のみならず、洗濯ばさみやノック式のボールペン、乾電池の留め具など、日用品の中にも数多く見つけることができます。
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3-2ばねの歴史ばねの歴史は何をばねと見なすかによって異なりますが、古代人が動物を捕獲するために木の復元力を利用して作った罠や、狩猟・採集に用いられた木で作られた弓矢などがばねの起源と言えるでしょう。
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3-3ばねの物理ばねの歴史は何をばねと見なすかによって異なりますが、古代人が動物を捕獲するために木の復元力を利用して作った罠や、狩猟・採集に用いられた木で作られた弓矢などがばねの起源と言えるでしょう。
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3-4圧縮コイルばねの特徴と種類圧縮コイルばねは、主として圧縮荷重を受けて弾性エネルギーを蓄えるコイルばねです。
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3-5引張コイルばねの特徴と種類圧縮コイルばねは、主として圧縮荷重を受けて弾性エネルギーを蓄えるコイルばねです。
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3-6ねじりコイルばねの特徴と種類ねじりコイルばねは、コイルの中心軸まわりにねじりモーメントを受けるコイルばねです。
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3-7渦巻きばねの特徴と種類渦巻きばねは平面内で渦巻形をしているばねであり、コイル同士が接触する接触型渦巻ばねとコイル同士が離れている非接触型渦巻ばねとがあります。
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3-8ばねに使用される材料冷間成形によって製造されるばね用鋼線のうち、代表的なものは硬鋼線とピアノ線です。
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3-9コイルばねの成形コイルばねは線材を精密かつ高速でコイル状に成形する必要がありますが、具体的にどのような工程でコイリングされているのでしょうか。