機械要素の基礎講座
1-5 標準平歯車の特長と寸法計算
歯車にはさまざまな種類がありますが、代表的で基本形となるものが標準平歯車です。
ここでは歯車の各部名称で紹介したことを具体的な寸法で見ていきましょう。登場するのは、歯車の形状を表す基本となる、ピッチ円直径d、歯数z、モジュールmです。この間にはd=mzという関係がありました。 かみ合う2枚の歯車を考えるときには、両者を区別するために、d1=mz1とd2=mz2というように表記します。 ここでもちろん、もモジュールmには等しい数値が入ります。また、歯先円直径はda=m(z+2)、歯底円直径はdf=m(z-2.5)で表されます。また、歯末のたけはha=m、歯元のたけはhf≧1.25mで表されます。よって、全歯たけはh≧2.25mとなります。 さらに、頂げきはc≧0.25mで表されます。標準平歯車では圧力角はa=20度です。
歯数がそれぞれ24枚と48枚でモジュールが3の一組の標準平歯車において、これらの値を計算した結果を以下に示します。
標準平歯車の計算例
小歯車1 | 大歯車2 | ||
1,モジュール | m | 3 | |
2,圧力角 | a | 20 | |
3,歯数 | z | 24 | 48 |
4,ピッチ円直径 | d | 72 | 144 |
5,歯先円直径 | da | 78 | 150 |
6,歯底円直径 | df | 64.5 | 136.5 |
7,歯末のたけ | ha | 3 | |
8,歯元のたけ | hf | 3.75 | |
9,全歯たけ | h | 6.75 | |
10,頂げき | m | 0.75 |
かみ合う一組の歯車において、それぞれの歯車の軸の中心距離を求めてみましょう。 それぞれのピッチ円直径の半分ずつを加えればよいので、小歯車と大歯車について、それぞれ72/2=36、144/2=72を加えて108となります。また、歯車の基本式であるd=mzを用いて求めることもできます。 この場合、小歯車について d1=mz1、大歯車についてd2=mz2を用いて、それぞれの半分を求めればよいため、d=(d1+ d2)/2より、d=m(z1+z2)/2が成り立ち、この式に値を代入するとd=3(24+48)/2=108となり、同じ結果が求められます。 (はじめの解き方の方が簡単に感じられますが、それぞれのピッチ円直径を求めるために同じ計算をしているため、実質は同じ計算をしています。)
かみ合う歯車を動かすためには、どちらか一方に動力を加えて回転させ、もう一方が動力を受けて回転させられるという関係がることを理解する必要があります。このとき、動かす側の歯車を駆動歯車、動かされる側の歯車を被動歯車といいます。この関係は歯車が3枚以上組み合わされて動く場合にも同じです。。
ここで駆動歯車の歯数をz1、被動歯車の歯数をz2としたとき、速度伝達比をi=z2/z1 と定義します。もし両者の歯数が同じならば速度伝達比は1で変化しません。 ここで取り上げた例の数値をあてはめると速度伝達比をi=z2/z1 =48/24=2となります。このことは、歯数24枚の歯車を駆動歯車として、歯数48枚の歯車を被動歯車として回転を伝えた場合、被動歯車の回転速度は駆動歯車の回転速度は半分の2になることを示しています。

図1 平歯車
『機械要素の基礎講座』の目次
第1章 歯車
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1-1歯車のはたらき歯車は機械の運動に関係する代表的な機械要素です。何か動くものを作ろうとするときには、必ずと言ってよいほど歯車が使用されます。
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1-2歯車の歯形歯車の歴史は古く、木製の車の外周に歯のようなものをつけて、水汲み装置などに使われていたのは、紀元前からとされています。
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1-3歯車のピッチとモジュール歯車を滑らかにかみ合わせるためには、インボリュート曲線が用いられていることは説明しましたが、歯形全体の形状のイメージはもてたでしょうか。
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1-4歯車の各部名称車にはピッチやモジュールの他にもさまざまな各部名称があり、歯車のかみ合いを考えるときに重要となります。
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1-5標準平歯車の特長と寸法計算歯車にはさまざまな種類がありますが、代表的で基本形となるものが標準平歯車です。
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1-6歯車の速度伝達比歯車は実際の工業の場面では一組で用いられることは少なく、複数個を順番にかみ合わせて動力や速度を伝達することが多くあり、これを歯車列といいます。
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1-7二軸が平行な歯車の特長と種類これまで紹介してきた歯車は、歯の山の方向である歯すじが歯車の回転軸に対して平行で直線状である平歯車であり、一般的な形状の歯車として動力伝達用に幅広く用いられています。
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1-8二軸が交わる歯車の特長と種類歯車には回転を伝達する二軸が交わる種類もあります。かさ歯車は傘の形状に似た円すい形の歯車であり、べべルギアともよばれます。
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1-9減速歯車装置のはたらき機械の複雑な動きの原動力は回転運動であることが多く、その回転速度や回転力を変換するために歯車が用いられます。
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1-10増速歯車装置のはたらき歯車は多くの場合、減速歯車装置として使われますが、増速歯車装置として使われることもあります。
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1-11差動歯車装置のはたらき歯車は減速装置や増速装置のほかにも、さまざまな活用法があります。差動歯車装置は、2つ以上の運動の和や差を検出して、1つの運動にして出力する歯車列であり、古くは古代中国に伝わる仙人が常に南を示す指南車が知られています。
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1-12遊星歯車装置のはたらき遊星歯車装置は、太陽のまわりを惑星が回転するように、一組の互いにかみ合う歯車において、二枚の歯車がそれぞれ回転すると同時に、一方の歯車が他方の歯車の軸を中心として公転するものです。
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1-13歯車の強度設計(1) 歯の曲げ強さ歯車は高速で回転しながら大きな動力を伝達する機械要素です。もし、高速で大きな動力を伝達している歯車が途中で割れるようなことがあれば大事故につながってしまいます。
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1-14歯車の強度設計(2)歯の歯面強さ歯車の強度設計にはルイスの式のほか、歯の歯面強さの視点から導かれた関係式があります。
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1-15歯車の作り方~成形法複雑な歯車の形状はどのように作られているのでしょうか。その昔、木製の簡単な歯車は手工具で加工をしていました
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1-16歯車の作り方~創成法歯車の歯を一枚ずつ成形法に対して、歯を全体的に少しずつ成形する工作法を創成法といいます。
第2章 ベルトとチェーン
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2-1ベルト・チェーンのはたらき歯車の強度設計1 歯の曲げ強さ
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2-2ベルトの種類ベルトは断面形状や材質の違いなどによって分類できます。
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2-3ベルトの選定ベルトの速度伝達比は歯車と同様に考えることができます。
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2-4チェーンの種類ベルトの速度伝達比は歯車と同様に考えることができます。
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2-5チェーンの選定チェーンの速度伝達比も歯車やベルトと同様に考えることができます。
第3章 ばね
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3-1ばねのはたらき代表的な機械要素であるねじや歯車と同じように、ばねも私たちの身のまわりでたくさん使われています。ばねは本格的な機械の内部のみならず、洗濯ばさみやノック式のボールペン、乾電池の留め具など、日用品の中にも数多く見つけることができます。
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3-2ばねの歴史ばねの歴史は何をばねと見なすかによって異なりますが、古代人が動物を捕獲するために木の復元力を利用して作った罠や、狩猟・採集に用いられた木で作られた弓矢などがばねの起源と言えるでしょう。
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3-3ばねの物理ばねの歴史は何をばねと見なすかによって異なりますが、古代人が動物を捕獲するために木の復元力を利用して作った罠や、狩猟・採集に用いられた木で作られた弓矢などがばねの起源と言えるでしょう。
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3-4圧縮コイルばねの特徴と種類圧縮コイルばねは、主として圧縮荷重を受けて弾性エネルギーを蓄えるコイルばねです。
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3-5引張コイルばねの特徴と種類圧縮コイルばねは、主として圧縮荷重を受けて弾性エネルギーを蓄えるコイルばねです。
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3-6ねじりコイルばねの特徴と種類ねじりコイルばねは、コイルの中心軸まわりにねじりモーメントを受けるコイルばねです。
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3-7渦巻きばねの特徴と種類渦巻きばねは平面内で渦巻形をしているばねであり、コイル同士が接触する接触型渦巻ばねとコイル同士が離れている非接触型渦巻ばねとがあります。
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3-8ばねに使用される材料冷間成形によって製造されるばね用鋼線のうち、代表的なものは硬鋼線とピアノ線です。
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3-9コイルばねの成形コイルばねは線材を精密かつ高速でコイル状に成形する必要がありますが、具体的にどのような工程でコイリングされているのでしょうか。