機械要素の基礎講座
1-2 歯車の歯形
歯車の歴史は古く、木製の車の外周に歯のようなものをつけて、水汲み装置などに使われていたのは、紀元前からとされています。その後、本格的に歯車が用いられるようになるのは、十三世紀頃からヨーロッパで機械式時計が登場してからのことです。 十五世紀に塔時計が普及すると、ますます精密な歯車が求められるようになり、数多くの時計職人が登場しました。十五世紀後半に活躍したレオナルド・ダ・ヴィンチは、さまざまな絵画や彫刻のほか、歯車やねじ、軸受など、機械のメカニズムに関するスケッチも数多く残しています。
初期の歯車は円板の円周に等間隔で棒を埋め込んだり、試行錯誤で削ったようなものでした。その後、歯車の用途が広がるとともに、十七世紀頃から歯車の理論研究がはじまりました。 十八世紀の産業革命期には材料が木材から鉄鋼へと変化するとともに、蒸気機関など本格的な動力機械が登場する中で、歯車の理論研究はますます活発になります。ここで歯車の理論研究とは、歯車がかみ合うとは理論的にどのようなことなのかを明らかにすることです。
ここで、皆さんも紙に二枚の円を描いてから、そこに歯車の形状を描いてみてください。すべての歯を描くのはたいへんなので、特に二枚の歯車がかみ合う絵を中心に表してください。どのような歯車の歯形を描くことができたでしょうか。
二枚のかみ合う歯車には、動力を伝える駆動歯車と動力を伝えられる被動歯車とがあります。すなわち、歯車の接触部で力を伝えて歯車を移動させ、伝え終わるとまた次の二枚の歯車が接触して力を伝えます。これが次々と行われることで歯車全体として回転が継続するのです。 ここでもし歯形が長方形だとすると、二枚の歯車が最初に接触した位置と最後に離れるときの位置がずれてしまい、滑らかに回転力を伝えることができません。また、歯が次の歯とかみ合うまでにすき間ができるため、回転速度にむらが生じてしまいます。
そこで技術者や数学者たちが歯車の歯形研究に取り組み、直線に沿って円が滑らずに回転するときの円周上の定点の軌跡であるサイクロイド曲線、そして円筒に巻き付けた糸をピンと張りながらほどいていくときに先端部が描く軌跡であるインボリュート曲線などが考案されました。 もちろん、理論的にかみ合うことがわかってもそれを製作できる工作機械がなければその歯車は普及できません。これらを一つずつ乗り越えて、現在では工業的に用いられる歯車にはインボリュート曲線が用いられています。

図1 インボリュート歯車
『機械要素の基礎講座』の目次
第1章 歯車
-
1-1歯車のはたらき歯車は機械の運動に関係する代表的な機械要素です。何か動くものを作ろうとするときには、必ずと言ってよいほど歯車が使用されます。
-
1-2歯車の歯形歯車の歴史は古く、木製の車の外周に歯のようなものをつけて、水汲み装置などに使われていたのは、紀元前からとされています。
-
1-3歯車のピッチとモジュール歯車を滑らかにかみ合わせるためには、インボリュート曲線が用いられていることは説明しましたが、歯形全体の形状のイメージはもてたでしょうか。
-
1-4歯車の各部名称車にはピッチやモジュールの他にもさまざまな各部名称があり、歯車のかみ合いを考えるときに重要となります。
-
1-5標準平歯車の特長と寸法計算歯車にはさまざまな種類がありますが、代表的で基本形となるものが標準平歯車です。
-
1-6歯車の速度伝達比歯車は実際の工業の場面では一組で用いられることは少なく、複数個を順番にかみ合わせて動力や速度を伝達することが多くあり、これを歯車列といいます。
-
1-7二軸が平行な歯車の特長と種類これまで紹介してきた歯車は、歯の山の方向である歯すじが歯車の回転軸に対して平行で直線状である平歯車であり、一般的な形状の歯車として動力伝達用に幅広く用いられています。
-
1-8二軸が交わる歯車の特長と種類歯車には回転を伝達する二軸が交わる種類もあります。かさ歯車は傘の形状に似た円すい形の歯車であり、べべルギアともよばれます。
-
1-9減速歯車装置のはたらき機械の複雑な動きの原動力は回転運動であることが多く、その回転速度や回転力を変換するために歯車が用いられます。
-
1-10増速歯車装置のはたらき歯車は多くの場合、減速歯車装置として使われますが、増速歯車装置として使われることもあります。
-
1-11差動歯車装置のはたらき歯車は減速装置や増速装置のほかにも、さまざまな活用法があります。差動歯車装置は、2つ以上の運動の和や差を検出して、1つの運動にして出力する歯車列であり、古くは古代中国に伝わる仙人が常に南を示す指南車が知られています。
-
1-12遊星歯車装置のはたらき遊星歯車装置は、太陽のまわりを惑星が回転するように、一組の互いにかみ合う歯車において、二枚の歯車がそれぞれ回転すると同時に、一方の歯車が他方の歯車の軸を中心として公転するものです。
-
1-13歯車の強度設計(1) 歯の曲げ強さ歯車は高速で回転しながら大きな動力を伝達する機械要素です。もし、高速で大きな動力を伝達している歯車が途中で割れるようなことがあれば大事故につながってしまいます。
-
1-14歯車の強度設計(2)歯の歯面強さ歯車の強度設計にはルイスの式のほか、歯の歯面強さの視点から導かれた関係式があります。
-
1-15歯車の作り方~成形法複雑な歯車の形状はどのように作られているのでしょうか。その昔、木製の簡単な歯車は手工具で加工をしていました
-
1-16歯車の作り方~創成法歯車の歯を一枚ずつ成形法に対して、歯を全体的に少しずつ成形する工作法を創成法といいます。
第2章 ベルトとチェーン
-
2-1ベルト・チェーンのはたらき歯車の強度設計1 歯の曲げ強さ
-
2-2ベルトの種類ベルトは断面形状や材質の違いなどによって分類できます。
-
2-3ベルトの選定ベルトの速度伝達比は歯車と同様に考えることができます。
-
2-4チェーンの種類ベルトの速度伝達比は歯車と同様に考えることができます。
-
2-5チェーンの選定チェーンの速度伝達比も歯車やベルトと同様に考えることができます。
第3章 ばね
-
3-1ばねのはたらき代表的な機械要素であるねじや歯車と同じように、ばねも私たちの身のまわりでたくさん使われています。ばねは本格的な機械の内部のみならず、洗濯ばさみやノック式のボールペン、乾電池の留め具など、日用品の中にも数多く見つけることができます。
-
3-2ばねの歴史ばねの歴史は何をばねと見なすかによって異なりますが、古代人が動物を捕獲するために木の復元力を利用して作った罠や、狩猟・採集に用いられた木で作られた弓矢などがばねの起源と言えるでしょう。
-
3-3ばねの物理ばねの歴史は何をばねと見なすかによって異なりますが、古代人が動物を捕獲するために木の復元力を利用して作った罠や、狩猟・採集に用いられた木で作られた弓矢などがばねの起源と言えるでしょう。
-
3-4圧縮コイルばねの特徴と種類圧縮コイルばねは、主として圧縮荷重を受けて弾性エネルギーを蓄えるコイルばねです。
-
3-5引張コイルばねの特徴と種類圧縮コイルばねは、主として圧縮荷重を受けて弾性エネルギーを蓄えるコイルばねです。
-
3-6ねじりコイルばねの特徴と種類ねじりコイルばねは、コイルの中心軸まわりにねじりモーメントを受けるコイルばねです。
-
3-7渦巻きばねの特徴と種類渦巻きばねは平面内で渦巻形をしているばねであり、コイル同士が接触する接触型渦巻ばねとコイル同士が離れている非接触型渦巻ばねとがあります。
-
3-8ばねに使用される材料冷間成形によって製造されるばね用鋼線のうち、代表的なものは硬鋼線とピアノ線です。
-
3-9コイルばねの成形コイルばねは線材を精密かつ高速でコイル状に成形する必要がありますが、具体的にどのような工程でコイリングされているのでしょうか。