機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

7-7 無電解めっきの原理と適用

無電解めっきは、電気を使わないで化学反応によって皮膜を析出させますから、化学めっきともよばれています。無電解めっきの種類は図1に示すように、置換型と還元型に分類することができます。それらのめっき原理は図2に示すように、それぞれ利点と欠点があり、個性豊かなめっき法です。

図1 無電解めっき(化学めっき)の種類

図1 無電解めっき(化学めっき)の種類

図2 無電解めっきの原理

図2 無電解めっきの原理

置換めっきは、めっきしたい金属よりも処理品のほうがイオン化傾向の大きい場合にのみ可能です。すなわち、イオン化傾向が大きいめっき処理品の金属がめっき液中に溶解することによって、電子を放出して金属イオンになり、めっき液中に存在しているめっきしたい金属イオンがその電子を受け取って金属として置換析出するものです。この場合、めっき処理品が還元剤の役割を果たしていますから、表面がめっき膜で覆われてしまうと反応が終了します。この反応を利用したものとしては、ジンケート処理とよばれているアルミニウムへの置換亜鉛めっき、金めっきのストライクめっきなどがありますが、いずれも厚めっきはできません。

還元めっきは、還元剤を利用してめっき金属を析出させるもので、非触媒型と自己触媒型があります。銀鏡反応は前者に属するもので、非触媒型の場合は、金属の析出は薬品の還元能力だけに依存するもので、銀鏡反応が該当します。このめっきでは、めっき処理品だけでなくめっき槽の内面やめっき治具などにもめっきされますから、金属イオンの消費が激しいため、めっき液の劣化が早く、厚めっきは困難です。

自己触媒型は、非触媒型と同様に化学薬品の還元能力を利用してめっき金属を析出させますが、同時に析出しためっき金属が触媒として作用しますから、還元反応(金属の析出)がめっき処理品に限定されます。したがって、還元剤の補給などめっき液の組成等を保持できれば、厚めっきが容易です。自己触媒型の代表的なものには、無電解ニッケルーリン(Ni-P)めっきと無電解銅(Cu)めっきがあり、めっき対象品は金属だけでなくプラスチックやセラミックなど多くの分野にまで及びます。

無電解めっきを代表するものは、ニッケルーリン(Ni-P)めっきであり、多くの特徴を持っていますから、広範囲の分野に適用されており、JIS H 8645でも各評価項目を規定しています。適用分野には、精密機械(カメラなど)、自動車部品(ピストン、シリンダーなど)、金型(プラスチック成形用)などがあり、主に耐摩耗性や摺動性付加を目的としています

Pの含有量は2~15mass%の範囲であり、3%以下は低リン、6~8%のものは中リン、10%以上のものは高リンとよばれており、一般的な皮膜は8~10%です。

めっきのままの硬さは500~550HV程度ですが、熱処理によって硬化させることができます。図3に示すように、得られる硬さは加熱温度によって異なり、400℃位の熱処理では、この皮膜の最高硬さが900~1000HVにも達しますから、耐摩耗部品に広く利用されています。しかも、熱処理温度だけでなく図4からも明らかなように、加熱時間によっても皮膜の硬さを制御できること、めっき対象物の材質や形状にもほとんど制約を受けないこと、など大きな特徴を持っています。

図3 Ni-Pめっき膜の熱処理温度と硬さの関係

図3 Ni-Pめっき膜の熱処理温度と硬さの関係

図4 Ni-Pめっき膜の熱処理加熱時間と硬さの関係

図4 Ni-Pめっき膜の熱処理加熱時間と硬さの関係

ただし、Ni-P膜は硬質Cr膜と同様に400℃以上の高温では急激に硬さが低下し、マイクロクラックを生じます。そのため最近では、高温硬さの優れているNi-ボロン(B)膜やNi-P-B膜が実用化され、これらは高温で使用される金型などに利用されています。

めっき膜のさらなる機能性を向上させる目的で、粒子分散めっきが利用されており、実用的な粒子分散の対象としている金属めっき膜の主体は無電解のNi-P膜です。現在実施されているNi-P膜に対する粒子分散の目的は、さらなる耐摩耗性を付加(より硬くする)、自己潤滑性を付加(摩擦係数を低減する)および撥水性を付加(離型性を持たせる)することです。ちなみに、現在もっともよく利用されている分散粒子は、耐摩耗性の付加を目的として炭化珪素(SiC)、自己潤滑性や撥水性の付加を目的としてふっ素樹脂(PTFE)や窒化ほう素(hBN)です。Ni-P膜の熱処理後の最高硬さは900HV位ですが、SiC粒子分散によって1200~1300HVにも達します。また、PTFE粒子の添加は、めっき膜の硬さは低下させますが、摺動性や離型性を大幅に改善します。

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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