機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第6章 機械部品に対する表面処理の役割

6-4 摩擦摩耗特性と表面処理

機械部品において、使用中に相手との摩擦をともなう箇所では、必ず摩耗が発生しますから、耐摩耗性を付与するために種々の表面硬化処理が利用されています。図1に、鉄鋼製品に適用されている主な表面硬化法と得られる表面硬さを示します。機械部品を対象として、耐摩耗性付与を主目的とした表面熱処理としては、高周波焼入れ、浸炭焼入れおよび窒化処理が行われています。また、コーティングとしては、硬質クロムめっきやニッケルーリンめっきが行われています。これらの表面処理によって得られる表面硬さは、1000HV以下のものが多いのですが、さらに高い硬さを要求される場合には、炭化物被覆やPVD・CVDによる硬質膜のコーティングが行われています。ただし、この超硬質層を得るための表面処理は、機械部品を対象とする例は少ないため、詳細は「工具の熱処理・表面処理基礎講座」において解説します。

図1 表面硬化処理によって得られる表面硬さ

図1 表面硬化処理によって得られる表面硬さ

摩耗は、固体や液体の相手材と接触し、その接触部における運動によって発生します。摩耗の原因によって摩耗機構を分類する場合には、固体同士の場合には凝着摩耗、アブレシブ摩耗および疲労摩耗に分けられています。

凝着摩耗は、すべり摩擦面に発生する摩耗で、摩擦によって発生した発熱によって相手材が融着し、さらにそれが剥がされることによって生じる摩耗現象です。防止策としては、耐摩耗性付与だけではなく、摩擦係数を低減させるべく表面処理の適用が有効です。

アブレシブ摩耗は、硬い粒子によって表面が削られて生じる摩耗です。削り取られる現象ですから、別名として切削摩耗、引っかき摩耗、スクラッチングともよばれています。この摩耗を防止するためには、表面硬化処理の適用が有効であり、しかも表面硬さは高いほど、表面硬化層厚さは厚いほど優位になります。

疲労摩耗とは、接触面における転動や打撃によって生じるもので、部分的なはく離(ピッチング)や、表面に発生したき裂が進展して、うろこ状に剥がされる摩耗現象(フレーキング)などです。防止策としては、高周波焼入れなど表面焼入れ、窒化処理、浸炭焼入れとショットピーニングの複合処理などの適用が有効です。

物体同士が摩擦した際にその接触面に働く力のことを摩擦力といいます。そのため、物体を動かすためには、物体に作用している摩擦力以上の力が必要になります。この物体が動き始めるときに必要な力を最大摩擦力といい、動いている間に作用している力は動摩擦力といいます。摩擦力の測定は、一般には図2に示すように、平面で物体を移動させて直接物体に作用している力を測定します。

図2 摩擦にともなって物体に作用する力

図2 摩擦にともなって物体に作用する力

硬質薄膜の摩擦係数と摩耗量を同時に算出できる試験機として、図3に示すようなボールオンディスク摩擦摩耗試験機がよく利用されています。この試験機は、固定した相手ボールを一定荷重で押しつけて試験片を回転させ、そのときの摩擦力から摩擦係数の変化を測定するもので、試験後の摩耗痕から摩耗量を測定することもできます。なお、図に示した回転テーブルを回転カップに変えることによって、液体環境中での測定も可能です。

摩擦力を小さくするためには、摩擦係数を低減する必要があり、通常は潤滑剤が用いられています。しかし、潤滑剤の原料として使用している石油類は、省資源対策、地球環境汚染物質である添加剤の排出規制、などの課題を抱えており、多方面から潤滑剤使用量の低減を要求されています。そのため、最終目標としての完全ドライ環境での摩擦係数を低減すべく、表面処理の開発が望まれており、種々の手法が提案されています。

ボックステキスト強調

図3 硬質膜の摩擦摩耗試験法の概略(ボールオンディスク摩擦摩耗試験の概略)

図3 硬質膜の摩擦摩耗試験法の概略(ボールオンディスク摩擦摩耗試験の概略)

現在、最も期待されている表面処理としては、耐摩耗性も加味したものとしてDLCコーティングがあげられ、ドライ環境下での切削加工や塑性加工に関する研究も活発に行なわれています。なお、この加工分野におけるDLC膜に関する詳細は、「工具の熱処理・表面処理基礎講座」において解説します。

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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