機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

3-4 熱処理条件と機械的性質の関係

機械構造用鋼にて作製した機械部品に要求される特性は、引張強さやせん断強さと同時に衝撃に強いことです。これらの特性は、材質によっても異なりますが、一般には焼入れ焼戻しによって調整されています。

表1 焼入れ焼戻しした各種機械構造用鋼の機械的性質〔JIS解説付表(1979)による〕

鋼種 焼入れ 焼戻し 引張強さ(MPa) 降伏点 (MPa) 伸び (%) 絞り (%) 衝撃値 (J/cm2) 硬さ (HB)
温度(℃) 冷却 温度(℃) 冷却
S35C 840~890 水冷 550~650   569以上 392以上 22以上 55以上 98以上 167~235
S45C 820~870 686以上 490以上 17以上 45以上 78以上 201~269
S55C 800~850 785以上 588以上 14以上 35以上 59以上 229~285
SMn443 830~880    油冷 急冷 785以上 637以上 17以上 45以上 78以上 229~302
SMnC443 932以上 785以上 13以上 40以上 49以上 269~321
SCr440 520~620 932以上 785以上 13以上 45以上 59以上 269~331
SCM440 530~630 981以上 834以上 12以上 45以上 59以上 285~352
SNCM439 820~870 580~680 981以上 883以上 16以上 45以上 69以上 293~352
SNC631 820~880 550~650 834以上 686以上 18以上 50以上 118以上 248~302
1.JISにみる鋼種間の比較

表1に機械構造用炭素鋼および機械構造用合金鋼のJIS解説付表(1979)による、焼入れ焼戻し後の硬さおよび機械的性質の参考データを示します。炭素鋼において、硬さ、引張強さおよび降伏点は炭素量が多いものほど高い値が得られます。また、炭素量が少ないものほど伸び、絞りおよび衝撃値は高い値が得られ、じん性の点では有利です。

炭素鋼と合金鋼を比較してみると、炭素鋼の降伏点は引張強さに対して70~75%程度の値ですが、合金鋼の降伏点は80~90%にも達しており、強度的には合金鋼のほうが圧倒的に有利です。また、硬さは炭素鋼と同程度もしくはそれよりも高い値であっても、合金鋼のほうが衝撃値や絞りは高い値を呈しており、じん性に関しても有利です。

合金鋼における合金元素の種類も機械的性質に多大な影響を及ぼします。例えば、SCM440とSNCM439の二種類の鋼種は、炭素量は同程度ですが、含有する合金元素の種類は異なっています。しかも、ほぼ同一条件の焼入れ焼戻しを施した場合、得られる硬さと引張強さは同程度です。しかし、降伏点、伸びおよび衝撃値はSNCM439のほうがかなり高い値が得られており、強靭性の点ではSCM440よりもかなり有利であることが分かります。これは合金元素としてのNiの効果であり、強度とともにじん性も重視するのであれば、機械構造用合金鋼の中でもSNCM439は最適鋼種といえるのです。

2.ねじり強さと衝撃値

機械構造用炭素鋼を代表してS48C、機械構造用合金鋼を代表してSCM435について、熱処理(焼入れ、焼戻し)条件と機械的性質の関係を示します。機械的性質の評価は、ねじり試験(せん断強さ)およびシャルピー衝撃試験(衝撃値)によって行い、主に焼戻温度の影響について説明します。

図1に、S48CとSCM435について、焼戻温度とせん断強さとの関係を示します。このねじり強さ(せん断強さ)は、ボルトやシャフトに使用する際には重要な特性ですが、引張強さと同様の傾向が得られます。すなわち、せん断強さは、鋼種に関係なく焼戻温度が高いほど低下しており、焼戻温度に依存していることが分かります。

図1 S48CおよびSCM435の焼戻温度とせん断強さの関係

図1 S48CおよびSCM435の焼戻温度とせん断強さの関係

図2に、S48CおよびSCM435について、焼戻温度とシャルピー衝撃値の関係を示します。衝撃値に関しては、焼入温度の影響も大きいことが予想されるため、それぞれ2種類の焼入温度について評価した結果を示しています。この図から明らかなように、衝撃値は鋼種に関係なく、焼戻温度の上昇とともに高くなっており、せん断強さとは逆の傾向を示します。ただし、全般的にはSCM435のほうが、各焼戻温度での硬さは高いにもかかわらず、衝撃値は同等もしくは高い値が得られており、合金鋼の特徴が認められます。

図2 S48CおよびSCM435の焼戻温度とシャルピー衝撃値の関係

図2 S48CおよびSCM435の焼戻温度とシャルピー衝撃値の関係

また、同一鋼種において、焼入温度の低い試料のほうが高めの衝撃値が得られています。このときの焼入れ焼戻し後の金属組織はソルバイトとフェライトの混合組織であることから、フェライトの現出が衝撃値に対して有効に作用していると思われますが、その値には大きな差はないようです。

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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