工具の通販モノタロウ 機構部品 機械部品の熱処理・表面処理基礎講座 鉄鋼の温度と金属組織の関係(鉄―炭素系平衡状態図)

機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第1章 機械部品に用いられる材料

1-5 鉄鋼の温度と金属組織の関係

鋼の基本は鉄(Fe)と炭素(C)との合金であり、含有する炭素量によって各温度における金属組織は異なります。それらを示したものが図1の鉄―炭素系平衡状態図です。 横軸は炭素量で、縦軸は温度を示しており、( )内の記号はそれぞれ実線で囲まれた部分の平衡状態を表しています。各記号の意味は次のとおりです。

図1 鉄ー炭素系平衡状態図

  • Liquidの略で液体(融液)を示しています。
  • δ
  • δ(デルタ)鉄のことで、1392℃から融点までの温度範囲で安定な体心立方晶の鉄と炭素の固溶体であり、組織はδフェライトといいます。
  • γ
  • γ(ガンマ)鉄のことで、727℃以上の温度で生じる安定な面心立方晶の鉄と炭素の固溶体であり、組織はオーステナイトといいます。
  • α
  • α(アルファ)鉄のことで、911℃以下の温度で安定な体心立方晶の鉄と炭素の固溶体であり、組織はフェライトといいます。
  • Fe3C
  • 鉄と炭素の化合物で、通称セメンタイトと呼ばれています。

図中の実線ABCDは液相線(加熱の場合は融点、冷却の場合は凝固点)であり、この温度以上では液体であることが分かります。その他の実線は変態点を示しています。

図2は、図1の鉄―炭素系平衡状態図のうち、鉄鋼材料を熱処理するうえで特に重要な箇所(点線で囲った箇所)について、平衡状態での変態点の名称や金属組織を詳細に示したものです。個々の変態点の冷却過程における反応は次のとおりです。なお、加熱過程では逆の反応を生じます。

図2 炭素鋼の平衡状態における金属組織

(1)A1変態点

オーステナイトからフェライト+セメンタイト(Fe3C)への変態が開始する温度で、炭素量には関係なく平衡状態では727℃一定です。このように一つの固体から二種類以上の固体が同時に生じる反応を共析反応といい、炭素量が0.765%の点を共析点、その炭素量を含有する炭素鋼のことを共析鋼といいます。 この共析鋼の727℃以下の金属組織は図3に示すように、フェライト+Fe3Cの共析組織で、この組織は通称パーライトと呼ばれています。

図3 パーライト組織のSEM像

なお、これよりも炭素量の少ない炭素鋼は亜共析鋼といい、常温ではパーライトとフェライトの混合組織になり、炭素含有量が少ないほどフェライトは多くなります。また、炭素量が0.765%よりも多いものは過共析鋼といい、図4に示すように、A1変態点以下の平衡状態ではパーライトと初析Fe3Cとの混合組織を呈しています。

図4 過共析鋼(SK120)の完全焼なまし組織(パーライト+初析Fe3C)

(2)A3変態点

オーステナイトからフェライトへの変態が始まる温度で、炭素量が多いほど低くなり、0.765%のときにA1変態点と一致します。この変態点は亜共析鋼にのみ存在するもので、亜共析鋼の完全焼なまし、焼ならしおよび焼入温度を決めるときの基準になります。

(3)Acm変態点

過共析鋼にのみ存在する変態点で、オーステナイトからFe3Cが析出し始める温度です。このAcm変態点を通過した際に析出したFe3Cは、初析Fe3Cと呼ばれています。

(4)その他の変態点

組織変化は生じませんが、770℃に純鉄の磁気変態点(A2変態点) 、210℃にセメンタイトの磁気変態点(A0変態点)があり、この温度で強磁性体から常磁性体に変化します。 この他に、δフェライトからオーステナイトに変化するA4変態点がありますが、融点に近い1392℃以上の高温ですから、鉄鋼材料の熱処理過程には無関係の変態点です。

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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