樹脂3種の選び方 - MCナイロン・POM・UHMW-PEの特性と用途を解説
製造現場や設計作業において、適切な樹脂材料の選定は製品の品質と性能を大きく左右します。本記事では、産業用途で広く使用されている3つの主要な樹脂材料(MCナイロン、ポリアセタール、超高分子量ポリエチレン)について、その特徴や用途、使用上の注意点を紹介して実務的な選定ポイントを解説します。
3種の樹脂材料の性能比較表
基本特性比較表
連続使用温度 | 曲げ強度 | 寸法安定性 | 耐摩耗性 | すべり特性 | 耐衝撃性 | |
---|---|---|---|---|---|---|
キャストナイロン | 120℃ | 〇 | △ | 〇 | 〇 | 〇 |
ポリアセタール(POM) | 90℃ | 〇 | △ | 〇 | 〇 | 〇 |
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE) | 80℃ | △ | × | ◎ | ◎ | ◎ |
耐薬品性比較表
酸性 | アルカリ性 | 有機溶剤 | |
---|---|---|---|
キャストナイロン | × | △ | 〇 |
ポリアセタール(POM) | × | × | 〇 |
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE) | 〇 | ◎ | 〇 |
凡例:◎(特に優れている)、〇(良好)、△(やや劣る)、×(劣る)
種類別特性と用途
MCナイロン
MCナイロンは、注型(キャスト)法にてモノマー直接重合・成形することにより
重合度と結晶化度を高めた高性能エンジニアリングプラスチックです。

特徴と性能
- 優れた機械的強度と耐熱性
- 自己潤滑性による高い耐摩耗性
- 高硬度かつ低粘性による優れた切削加工性
使用上の注意点
吸水による影響
- 吸水によって寸法・強度特性が変化する可能性あり
- 高湿度環境や水中での使用時は事前吸水処理を推奨
化学的制限
- 酸に対して弱く、低濃度でも劣化の可能性あり
保管時の取扱い
- 滑りやすい特性があり、保管は水平な場所推奨
- 荷崩れ防止対策が必要
主な用途
- 各種ローラーやスターホイール
- スクリューや軸受け部品
- ライニング材
- ガイド
- 工業用歯車・スプロケット
ポリアセタール(POM)
ポリアセタールは、精密な機械部品製作に適した優れた加工性と 耐摩耗性を持つ樹脂材料です。

特徴と性能
- 切削時のバリや反りが少ない良好な加工性
- 低摩擦係数による高い自己潤滑性
- 優れた耐摩耗性
- 食品衛生法適合
使用上の注意点
- 耐加水分解性に劣るため、温水中での使用は不向き
- 加熱時にホルムアルデヒドが発生するため注意が必要
主な用途
- 一般機械部品
- 食品機械部品
- 摺動材
超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)
UHMW-PEは、特に過酷な使用条件下で優れた性能を発揮します。

特徴と性能
- プラスチック中最高レベルの耐摩耗性
- PTFEに次ぐ低摩擦係数
- 優れた自己潤滑性と非付着性
- ‐100℃までの極低温域でも高い耐衝撃性
- 食品衛生法適合
使用上の注意点
- 高温環境には不向き(最高使用温度は80℃)
- 収縮が大きく寸法安定性に劣る
- 薬品に強いため接着が困難
主な用途
- 食品機械部品
- 一般機械部品
- 軸受け
- ガイドなどの摺動部品
用途別の選び方の例
主要な要件別に、どの素材が推奨されるか解説します。
1. 高温環境(100℃以上)での使用
- 推奨:MCナイロン(120℃まで)
- 機械的強度も重視する場合:MCナイロン
2. 低温環境での使用
- -100℃までの極低温域:UHMW-PE
- 温度変化の大きい環境:MCナイロン
3. 化学薬品との接触がある環境
- 酸性環境:UHMW-PE
- アルカリ性環境:UHMW-PE
- 有機溶剤環境:個別確認が必要
4. 寸法精度が重要な場合
- 高精度要求:MCナイロン、POM
- 加工性重視:POM(切削時のバリが少ない)
- 避けるべき:UHMW-PE(寸法安定性が低い)
5. 水分との接触がある環境
- 水中使用:UHMW-PE
- 避けるべき:POM(加水分解の懸念)
まとめ
用途に応じた最適な材料選定のために
工業用樹脂の選定では、要求される特性と使用環境を総合的に判断することが重要です。 本記事で解説した各材料の特性を十分に理解し、用途に最適な材料を選定することで、 製品の信頼性と性能を最大限に引き出すことができます。
※記載されているデータは一般的な使用条件下での値であり、実際の使用環境下では 変動する可能性があります。具体的な使用に当たっては、材料メーカーの技術資料を ご確認ください。
本記事および掲載画像は、セイブプロセス株式会社に許可を得て作成したものです。 |