腐食のメカニズムと腐食試験法
腐食のメカニズム
鉄などの金属に発生するさびも腐食の1種です。鋼材などに腐食が生じてしまうと外観が悪くなってしまい、商品価値も落ちてしまうため、保管するときの対策が必要です。しかし、金属に腐食が起こる原因を知らない人もいるかもしれません。ここでは、腐食が起こる原因やメカニズムについてみていきましょう。
腐食とは
腐食は、化学や生物的な作用によって、物体の外観や機能が損なわれる状態のことです。食べ物でも腐食は起こりますが、ここでは金属の腐食について紹介します。
金属の腐食は、金属が周囲の環境と化学的に反応して溶けたり、一部が失われたりする現象のことです。表面からだんだんと均一に失われていくのが一般的な形態ですが、腐食にはいくつかの種類があります。
金属の腐食で最初にイメージするのは「さび」ではないでしょうか。さびが発生した金属は使用できなくなるため、対策が重要視されています。
腐食発生のメカニズム
金属は、大気中の酸素によって表面に酸化被膜を形成しています。この酸素に加え、雨水や大気中の水分、金属表面の汚染物などが表面に付着し酸化被膜が破壊されることが、腐食発生のメカニズムです。その後、金属表面から金属の内部へと腐食は進行していきます。
金属の腐食が進行する条件には3つあります。
- 酸化剤(大気中の酸素や水分中のH+など)
- 腐食される金属
- 水
上記の3つの条件が重なることで腐食が進行してしまうのです。
また、腐食形態の種類は均一腐食と局部腐食の2つに分けることができます。
均一腐食は、金属の表面全体が腐食減肉するものです。腐食しやすい金属ほど起こりやすく、酸に浸漬した鉄の腐食や銀の表面変色などもこの腐食に該当します。
一方、局部腐食はわずかな腐食のため、発見がしにくいと言われていますが、一般的な製造部品などで起こる錆は、ほとんどが局部腐食です。例えば、部材間のすきまで起こるすきま腐食も局部腐食ですが、部材が壊れるまで腐食に気づかないことがあります。ほかにも、孔食や応力腐食割れなどさまざまな種類があり、材質や表面状態、使用環境などによって異なります。
乾食と湿食
腐食は上記で紹介したとおり化学反応のため、反応速度は温度に左右されます。たとえば、炭素鋼を加熱すると高温酸化と呼ばれる腐食が発生しますが、その速度は数百℃以上で大きくなるのです。
一方、常温の乾いた空気中では炭素鋼の酸化はほとんどなく、腐食は起きません。これは、腐食という化学反応が起こるために必要な温度に達していないからです。
一方、常温の鋼材を水に漬けたり、雨ざらしにしておいたりすると簡単にさびが発生し、腐食が進行します。このように水が存在するときの腐食が湿食です。これに対し温度が高く、水がなくても起こる腐食を乾食と呼びます。
湿食と乾食の特徴を見てみましょう。湿食は常温でも生じるものであり、腐食環境中の電解液が必要なので、電気化学的反応に分類されます。一方、乾食は水蒸気や炭酸ガスなどの気体と反応することで起こるため、腐食環境中の電解液は必要としません。次の項目では湿食のメカニズムについて詳しく見てみましょう。
湿食が起こる様子は、乾電池の反応と似ているといわれています。乾電池は、内部に炭素の棒(プラス極)、外部に亜鉛の円筒(マイナス極)、その間を電解液で満たすという構造です。乾電池に電球をつなげると、電流がプラス極から電球を通りマイナス極に流れ、マイナス極から電解液を通りプラス極に戻ります。これと同様の働きが金属の中で起き、マイナス極である亜鉛が溶け、腐食が生じるのです。
この反応は、ステンレス鋼と炭素鋼といった金属同士でも同様に起こります。また、乾電池では電解液が使われていますが、淡水や海水など電解液と同じ働きをするものであれば条件が整うため、金属が水にさらされることで腐食は起きると考えてよいでしょう。
腐食試験法
構造物に使用する材料の選定において、腐食耐性は大きな判断基準となります。この腐食耐性を調査するのが腐食試験法です。腐食試験法は、実際の使用環境下に素材を置く方法と、機材のなかで実験的に腐食を促進させて調査する方法の2種類に大別できます。これら腐食試験法の種類や判定要素についてご紹介していきましょう。
耐用年数の判定要素
建造物の部材に使用される金属には、ステンレス鋼をはじめとしてさまざまなものがあり、その腐食の種類も多種多様です。従って、部材の耐用年数を判定するには、金属の種類、腐食の種類、使用する環境などさまざまな要素を勘案して実施しなければなりません。
まず、無塗装状態の耐候性鋼の耐久性を試験するには、実使用環境に似せた環境下の試験台に複数の試験片を取り付けて、1年から15年程度の範囲で一定の期間ごとに一部ずつ試験片を回収していき、経年による腐食状況をチェックします。
この調査によって、使用年数と腐食量の関係を図に表し、線を延長することで長期に渡る未来の腐食度合いを推定することが可能です。ただし試験結果の活用としては、推定腐食度そのものではなく、耐候性鋼の使用可否を大まかに判断する場合などにおいて使用されます。
亜鉛メッキなどで被覆された鋼材の腐食試験については、推定使用状況に応じて塩水噴霧・乾燥や、高湿度条件などを組み合わせた複合サイクル試験が行われることも少なくありません。無塗装の鋼杭など耐海水鋼の腐食試験では、海中および海上の環境で試験片を設置して環境暴露試験を行います。海中・干満部・海上・大気中でのそれぞれの状況を確認するため、海中から海上にまで伸びた細長い試験片を用いるのが一般的です。
大気中の金属腐食の進み具合が経時的に変化しやすいのに比べ、海水中の金属腐食は比較的一定のペースで進みやすいため、耐海水鋼は長期の腐食予想がしやすい使用条件であると言えます。
一方で、ポリエチレン、ポリウレタンなどで被覆された海洋用防食杭は、非常に優れた耐食性が逆に腐食試験の妨げとなりやすいです。これは腐食の進みが極めて遅く、通常の使用環境での予測試験が困難だという理由があります。そのため、試験では太陽光による物理的劣化の度合いを計測する目的で紫外線照射を行ったり、高温下での酸化速度から化学的強度を調べたりして、耐用年数の推測を進めていくことになります。
腐食試験の種類
腐食試験の種類には、その腐食環境によってさまざまなものがあります。構造物の素材としてもっとも広く使用されるステンレス鋼を例に、腐食試験の種類をご紹介します。
ステンレス鋼の腐食試験は、12種類の試験方法および1種類の標準サンプルがJIS規格化されています。試験内容としては、粒界腐食を測定するための試験がもっとも多い5種類です。
次に孔食を測定するものが3種類、応力腐食割れ・隙間腐食・全面腐食を測定するものがそれぞれ1種類ずつ。またアノード分極曲線測定方法と、標準サンプルとなる表面錆発生程度評価方法もあります。下記に、ステンレス鋼についての腐食試験方法の一覧を付しますので参考にしてみてください。
- ステンレス鋼のしゅう酸エッチング試験方法(粒界腐食試験)
- ステンレス鋼の硫酸・硫酸第二鉄腐食試験方法(粒界腐食試験)
- ステンレス鋼の65%硝酸腐食試験方法(粒界腐食試験)
- ステンレス鋼の硫酸・硫酸銅腐食試験方法(粒界腐食試験)
- ステンレス鋼の電気化学的再活性化率の測定方法(粒界腐食試験)
- ステンレス鋼の孔食電位測定方法(孔食試験)
- ステンレス鋼の塩化第二鉄腐食試験方法(孔食試験)
- ステンレス鋼の臨海孔食温度測定方法(孔食試験)
- ステンレス鋼の応力腐食割れ試験方法(応力腐食割れ試験)
- ステンレス鋼の腐食すきま再不動態化電位測定方法(すきま腐食試験)
- ステンレス鋼の硫酸腐食試験方法(全面腐食試験)
- ステンレス鋼のアノード分極曲線測定方法 (電気化学測定)
- ステンレス鋼の表面さび発生程度評価方法(標準サンプル)
腐食が生じてしまうとその商品や部品は、使うことができなくなります。温度や水などの条件により腐食は起こるため、保管時にきちんと対策を立てることが大切です。もし、金属の保管場所に気を配っていなかった場合、あらためて腐食の条件が揃っていないか確認しておきましょう。
腐食試験方法にはさまざまな方法があり、対象物の耐久性の推測に役立っています。しかし、それぞれの腐食試験環境は実環境とはあくまで異なるという点を考慮しなくてはなりません。実環境暴露型の試験であっても、風雨の当たり具合の違いや構造物と試験片では大きさが全く違う点なども、試験結果のブレの原因となります。耐用年数の推測は、これらのブレをふまえて慎重に行うようにしましょう。