電気防食法と被覆防食法
電気防食法
電気防食とは、金属に電気を流すことで、腐食の起こらない防食電位に変化させて腐食を防ぐ工法です。電気防食は主に海洋・水中・土壌中などの環境に置かれた構造物の防食のために用いられてきており、塗装やメッキを施すことができない環境下の対象物にも適用できます。電気防食法について必要な知識を見てみましょう。
電気防食法の原理
金属の腐食は、金属表面に酸化還元反応が起こり、電子がイオン化して脱落していくことによって発生します。海水中や土中に置かれている構造物は、塩分、水分などの影響を受けることで腐食が起こりやすい状態になっているのです。これらの構造物を腐食から守る電気防食法とは、どのような原理によって成り立っているのでしょうか。
金属に腐食が起こるには、pHと電位の関係性が大きく関わっています。金属の状態は、pHと電位のバランスによって「不動態」と「不活性」と「腐食」の3つに分けることができます。このとき、「不動態」と「不活性」の状態にある場合は金属に腐食が起こりません。電気防食はこの原理を利用した防食法です。対象物となる金属に電流を流して、金属を腐食しない防食電位(不動態・不活性)まで変化させることで、電子のイオン化と金属の腐食を防止することができます。
電気防食によって対象となる金属の電位を変化させる時、電位を不動態の方向(貴方向)へと変化させる工法をアノード防食法、不活性の方向(卑方向)へと変化させる工法をカソード防食法といいます。ただし、アノード防食法はステンレス鋼のような金属の不動態安定を補助するために用いられるもので、あまり実施例がありません。電気防食法は、カソード防食法のことを指すのが一般的です。
電気防食法のメリット
電気腐食法にはどのようなメリットがあるのでしょうか。主な長所をご紹介します。
電気防食法は、主に海洋や水中、土壌中の環境に置かれている対象物に防食処理を行うことが可能です。これらの環境下では、そもそもメッキや塗装などの一般的な防食加工を行うことが困難だったり、防食加工の耐久性が期待できなかったり、また塗装のやり直しなどのメンテナンスができなかったりと、さまざまなケースが考えられます。こういった場合にも有効な手段として活用できるのが、電気防食法の利点です。
電気防食法の種類
防食加工が困難なケースでも幅広く適用できる電気防食法ですが、その手法にはどういったものがあるのでしょうか。以下について、ひとつずつ見ていきましょう。
流電陽極方式は対象物となる金属を、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムなどの金属に接続する方法です。これらの金属はイオン化傾向が大きいため、対象物となる金属との間の電位差を利用して防食電流を発生させます。この方式は、外部から電気を供給する仕組みを必要としません。したがって、色々な場所で活用できる工法であり、現在では一般的に使用されている電気防食法の工法のひとつです。
外部電源方式とは、環境中に不溶性電極を設け、金属に対して直接電流を送って電位を操作する工法です。流電陽極方式と違って常に電流を流して使用する方式であるため、使用できる場所に制限があり、電気の影響を受けるものの付近では使用できません。ほかにも、電極そのものの耐久性にも配慮する必要があるなどの短所があります。メリットは耐久性が高くて耐用年数が長いこと、腐食性の激しい環境下でも使用できることです。かつては電気防食法の主流工法として使用されていましたが、現在ではあまり使用されていません。
選択排流法は、鉄道の線路に使用される工法です。線路に埋設されている金属には、常に車両や電鉄軌条から漏れ出てくる迷走電流の影響を受けています。この迷走電流を適切に排出することによって、対象物へ悪影響を及ぼすことを防ぐ方法が選択排流法です。
電気防食法は海水中や土壌中などの環境下に置かれた金属を、電子のイオン化を防ぐことで腐食から守る方法です。それぞれの工法によって適性や特長は変わり適用できる対象物が異なってくるので、正しく理解しておきましょう。
被覆防食法
建造物などの耐久性を考える時、防食処理は欠かすことのできない概念です。以前は、部材が腐食を受けることをあらかじめ想定して、「腐食代」を設定する工法も存在しましたが、現代の一般的な建築では被膜によって腐食を防ぐ対策を施すことが主流となりました。被覆防食法の概要や種類について解説します。
有機被膜による防食(塗装など)
有機被膜による防食は、塗料による塗装と有機ライニングの2種類に大別できます。
塗装とは、展色剤と顔料をまぜた塗料を対象物に塗ることです。顔料はさまざまなタイプに分類することができ、着色顔料、電気化学的作用により腐食を防ぐ防錆顔料、また塗装の性質を調整する体質顔料などがあります。
塗装による防食のメリットとしては、塗布や補修が簡単であること、費用が安いことなどがあります。しかし、耐候性・耐久性にやや劣るという点がデメリットです。
塗装時には、特に対象物の素地の調整が重要となってきます。塗装の効果や寿命を向上させるために、必要に応じて表面にサンドなどの吹きつけや研磨を行いましょう。
有機ライニングとは、ポリエチレン、ウレタンエラストマー、エポキシなどの有機物を、対象物に対し押出被覆、貼付け、塗装などで覆う工法です。塗料による塗装が1mm前後の厚みであるのに対し、有機ライニングは、約2~3mmとやや分厚い被膜を施します。それぞれの材質の特徴を見てみましょう。
大量生産が可能で安価であることが最大の長所であり、素材的に耐久性にも優れています。ただし、押出被覆または貼付けによる施工となるので、複雑な形状面の施工は簡単にはできません。
塗装による施工を主とし、複雑な面の対象物にも適用できます。1回の塗布でも厚い膜ができ、耐久性にも優れていることが特徴です。デメリットとしては、塗装には二液エアレスタイプの特殊塗装機が必要で、エポキシ樹脂の場合は耐候性にやや難があるため適用箇所の選定に注意しなければなりません。
無機被膜による防食(金属など)
無機被膜は、金属の被膜を使用するものと、モルタル(コンクリート)などの非金属を使用するものとに大別できます。工法には、最もよく利用されるメッキを中心として、溶射、合わせ金などさまざまなものがあり、対象物の腐食環境によって被膜材と工法の選定が必要です。代表的な使用例としては、亜鉛を被膜としてメッキで塗膜する工法があり、自動車の車体や家電製品の防食など幅広い範囲で活用されています。
金属皮膜に用いるのはさまざまな素材があります。
まず、ニッケル、銀、銅、鉛、クロムなどは主にメッキで施工する金属です。次に、耐海水性ステンレス鋼、チタン、モネル、キュプロニッケルなどは、クラッド、または金属巻きつけによって施工できます。
金属被膜は、耐久性・耐衝撃性に優れており、取扱いが簡単なことが特徴です。反面、イニシャルコストが高額となりがちな点、異なる金属同士の接触による腐食に配慮する必要がある点などに注意しなければなりません。また、金属被膜で代表的に用いられるメッキ工法においては、メッキ層のピンホールや傷から対象物素地の腐食の進行に影響を与える場合が多くみられます。
非金属被膜に用いられるのは主にモルタル(コンクリート)です。現地での施工に限られるため施工が大掛かりになりがちであることが短所ですが、豊富な使用実績が蓄積されている点、耐久性に優れている点などの長所があります。なお、非金属皮膜の被膜は厚み100mm程度の非常に厚いものが一般的です。
複合被膜による防食
複合被膜は、2種類の部材を複合的に組み合わせて被膜とするタイプのものです。ペトロラタムテープの巻き付けとFRP保護カバーを併用するもの、または、FRP保護カバーとセメントモルタルを併用するものなどが代表的な工法として挙げられます。これらの工法は耐久性が優れており、水中での施工も可能であるため適用範囲が広いのが特長です。しかし、施工は現地施工に限定して使用しなければなりません。
被覆防食法は、対象物を被膜で覆い、水や酸素などの腐食因子から守るための工法です。対象物の腐食環境や素材、耐久性などを考慮して、被膜の種類や工法を選択して下さい。