超音波洗浄の原理

超音波を使用した洗浄方法は、的確に汚れを落とすことが可能です。さまざまな被洗浄物に使用できるため、産業洗浄の代表と言っても過言ではありません。製造・工業に従事する者として、超音波がなぜ洗浄に適しているか、その原理を知っておきましょう。

超音波洗浄の原理

超音波洗浄とは、その名の通り、超音波を使った洗浄方法です。頑固な汚れや、細部に入り込んだ汚れまで落とすことができるため、広い分野で実施されています。では、超音波洗浄はどういった原理で汚れを落としているのでしょうか?

そもそも超音波とは、20kHzを超える「人間の耳では聞き取れない音」のことです。音としては聞こえませんが、空気(あるいは液体や固体)を振動させて広がります。この振動を利用した洗浄方法が、超音波洗浄です。超音波洗浄では、基本的に洗浄液を入れた液体を媒介にして汚れを落としていきます。

では、なぜ超音波で汚れを落とすことができるのでしょうか。その理由として、大きく分けて「キャビテーション」と「液体分子の加速度」という2つの原理が挙げられます。

キャビテーション

液体の中には、たくさんの気体分子が存在しています。超音波(20~100kHz)を液中に照射することで、「正」「負」の2種類の圧力を交互にその分子にかけることが可能です。それにより、正の圧力ではぎゅっと分子が圧縮され、負の圧力では激しく膨張します。これを繰り返すと、気体分子は弾けて壊れてしまいますが、この作用が「キャビテーション」です。分子が壊れる際の衝撃波が、被洗浄物に付着した汚れを引き剥がします。

キャビテーションの作用が期待されるのは、主に低・中周波の洗浄においてです。音波の発振周波数が低いほど、キャビテーションが発生しやすくなります。

液体分子の加速度

水の分子は超音波を発生させることで加速します。この加速した分子が被洗浄物にぶつかることで、表面に付着した微細な汚れを剥離させる洗浄原理が、「液体分子の加速度」です。 加速度は超音波の発振周波数が大きくなるほど大きくなります。つまり、中・高周波の洗浄で期待される作用です。

キャビテーションの作用が期待されるのは、主に低・中周波の洗浄においてです。音波の発振周波数が低いほど、キャビテーションが発生しやすくなります。

超音波の発振周波数が変わると波長は変化します。周波数が低ければ波長は長く、高ければ短くなるのです。周波数によってキャビテーションや加速度に違いが生まれます。実際に洗浄を行う時には、求める洗浄効果や被洗浄物の種類などによって周波数や洗浄剤を使い分けることが必要です。

超音波洗浄の特徴

超音波を使った洗浄方法は、他の洗浄方法とどんな違いがあるのでしょうか。また、超音波洗浄の中でも、低周波と高周波にはそれぞれどんな特徴があるのでしょうか。超音波洗浄は、洗浄槽の底や側面に振動板を設置し、洗浄槽外の超音波発振器を操作することで超音波を洗浄槽内に発生させ、洗浄効果を得ます。以下は超音波洗浄の基本的な特徴です。

  • 非常に洗浄力が高く、人の手では落とすことができない微細な汚れを被洗浄物の細部まで落とすことができる。
  • 異なる周波数を複数の工程で用いることで、種類や大きさの違うパーティクルを除去することが可能。
  • 対応する被洗浄物の種類が多い。(ただし被洗浄物によっては傷がつく可能性があるため注意が必要)
  • 超音波が当たる部分と当たらない部分で洗浄効果に違いが出てしまうため、均一に超音波を当てる工夫が必要。

また、低周波と高周波では、洗浄効果や被洗浄物に与える影響が異なります。

低周波による超音波洗浄

低周波の場合、主な被洗浄物は金属、精密金属の部品洗浄、樹脂部品の脱脂洗浄などです。キャビテーションの強力な洗浄効果により、頑固な汚れまでしっかり落とすことができます。加工油や切削油、切粉や研磨粉、フラックスの除去などに最適です。ただし衝撃力によって被洗浄物にダメージを与えてしまう可能性もあるでしょう。特に、26kHzくらいの強力な超音波は、アルミ箔に穴を開けるほどの力があります。キャビテーションがムラなく均一に行われるよう、調整が必要です。

高周波による超音波洗浄

半導体ウエハ、液晶ガラス、ハードディスクなどは、高周波の超音波洗浄が用いられます。分子の加速度によって洗浄を行うため、キャビテーションによるダメージがほとんどありません。そのため、ダメージに弱い精密部品の洗浄に向いています。ムラなく洗浄することが可能です。波長が短いため、微細な汚れまで落とすことができるでしょう。その代わり、頑固な汚れや大きい汚れは苦手です。

まとめ

一般的にもよく知られている超音波洗浄は、産業洗浄において切っても切り離せない存在です。ただ超音波洗浄と一口に言っても、周波数によって得られる効果が異なります。それぞれの違いをしっかり把握し、自分たちの目的にあった洗浄方法を選びましょう。

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