防食剤の役割

高度経済成長期には、鉄がさびるのは仕方ないという考えのもと、防食を重要視しない形で構造物が建造されていました。しかし数十年経った今、防食性能の低いそれらの構造物の塗装や修繕が大きな負担となるケースも増加中です。こういった負担を軽減しうる防食剤の活用は、今後の建築においてはますます重要となってきます。

防食剤の役割と分類

腐食対策でしばしば使用される防食剤は、その作用機構によって「酸化皮膜型」「沈殿皮膜型」「吸着皮膜型」の3種類に大別できます。それぞれの特長は以下の通りです。

酸化皮膜型防食剤

不動態化を促進するタイプの防食剤です。不動態化剤とも呼ばれます。金属表面を酸化させることで、表層に緻密な酸化被膜の層を作り出すことができる上、この膜は3nmから20nm程度の非常に薄いものなので、対象物との密着性は良好です。主に亜硝酸塩、モリブデン酸塩、クロム酸塩などから構成されます。

沈殿皮膜型防食剤

金属表面に防食作用のある層を形成する防食剤です。金属表面に防食剤そのもの、もしくは防食剤と環境中の成分が結合して形成された皮膜などが沈殿して金属を覆うことで、防食の効果を得ることができます。タイプとしては、カルシウムイオンなどの水中イオンと防食剤が結合して、金属との密着の弱い厚い皮膜をなすタイプと、金属面の金属イオンと防食剤が結合して、金属との密着の良い薄い被膜をなすタイプのふたつ。前者は重合リン酸、正リン酸塩、ホスホン酸塩、亜鉛塩など、後者はトリアゾール系化合物などを成分とします。

吸着皮膜型防食剤

対象物の表層に吸着して分子の膜を成し、防食層を得る防食剤です。金属面に吸着する極性基と水・酸素を遮断する働きを持つ疎水基を有する分子が、金属面に皮膜として吸着することで、極性基が金属側、疎水基が環境側を向く配置となって疎水性能が得られます。吸着皮膜型を構成する代表的な成分は、有機アミンや界面活性剤などです。

防錆剤の種類と特長

防食剤のなかでも特に防錆剤と言われるものには、いったいどのような種類があるのでしょうか。その特徴と併せてご紹介します。

さび止め油

さび止め油は、JIS規格にて5形15種類が定められています。まず、指紋除去形と呼ばれる形式のさび止めは、低粘度の油膜状の形態をなすものです。機械の部品などに付着する手指の指紋を除去する役割を持ち、指紋を除去することで指紋の付着を原因とするさびの発生を防ぎます。

次に潤滑油形と呼ばれる形式のさび止め油は、もっとも種類が豊富で計6種類の展開です。低粘度~高粘度の油膜をなし、溶剤を含まないため引火危険性が低いことが特長となります。

また溶剤希釈形と呼ばれる形式のさび止めは、すべて合わせると5種類です。膜の性質は硬質から軟質までそれぞれ異なり、種類によって屋内及び屋外環境にて防錆の性能を発揮しますが、たとえば水置換性を持つもの、長期さび止めに使用できるものなどがあります。

そしてペトロラタム形と呼ばれる種類は、高度な仕上げ面に対して使用できるさび止め剤です。性質としては軟質膜をなすもので、転がり軸受などに使用します。

最後に気化性のさび止め油は、密閉空間にて使用できるさび止めです。

その他の防錆剤

さび止め油以外の防錆剤にも、いくつかの種類があります。たとえば気化性や水溶性の防錆剤で、水溶液にしたり密閉空間でそのまま使用したりするさび止め剤や、紙状あるいはフィルム状の形状を持つ防錆剤などです。

また金属表面に吸着して疎水膜を生成し、水や酸素の接触を防ぐことで防錆効果を得るインヒビターなどもよく見られます。これら防錆剤の種類や適用範囲はさまざまなものが研究開発されており、その選択肢は非常に多岐にわたっているので、シーンに合わせて使い分けるようにするといいでしょう。

まとめ

さびは、金属が環境中で腐食を受けることによって生成される物質です。軽微なものでは構造物や製品の美観を損なうほか、長年にわたって蓄積したさびなど、深刻な例では構造物の損壊に繋がったり、操作や使用に支障をきたしたりすることもあります。
金属製構造物や機械の腐食劣化を防ぎ、きちんとした維持管理を行っていくには、防食が非常に重要な概念となるので、多種多様な防食剤・防錆剤のなかから、環境や素材特性に適合するものを適切に使用するよう心がけておきましょう。

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