ベアリングの寿命計算
ベアリングの寿命について
ベアリングは、正しい負荷のもとで、正常に取り付け、潤滑を行っている場合でも、軌道面や転動体には常時、一定の圧縮応力が加わっています。その力は表面の浅い部分に集中するのが一般的。その結果、やがては表面に材料の疲労による鱗状の破損(フレーキング)が起こってしまいます。
ベアリングの寿命は、正常な条件の下に使用した上で、繰り返しかかる力によってフレーキングが起こり、使用が続けられなくなる状態を指します。
寿命の捉え方としては、「定格寿命」「機能寿命」「潤滑寿命」「音響寿命」などがあります。
機能寿命は振れや回転数が規定値を超える境界、潤滑寿命は潤滑剤が劣化することで潤滑の性能を果たさなくなる境界、音響寿命は騒音レベルの規定値を超える境界というように、それぞれ一定の基準を満たさなくなるまでを言います。
その中でも、ベアリングの寿命計算として最も重要となる捉え方のひとつ、「定格寿命」について詳しく見てみましょう。
ベアリングの定格寿命
定格寿命は、一群の同じベアリングを同じ条件で個々に動かしたとき、そのうちの90%のベアリングが材料のフレーキングを起こさずに回転できる総回転数、もしくは一定回転数での時間として定義されています。
JIS等による軸受関連規格にもとづいて高い品質で製造されたベアリングは、JISやISOなどの規格を適用した定格寿命あるいは定格荷重の計算が可能となっています。
L10 [rev]=(C/P)p×106
L10h [h]=(C/P)p×16667/n
L10:基本定格寿命
C:基本動定格荷重 [N]
P:動等価ラジアル荷重 [N]
p:指数⇒玉軸受:p=3, ころ軸受:p = 10/3
基本動定格荷重とは、ベアリングが100万回転の基本定格寿命に耐えるような、一定のラジアル荷重。
ラジアル軸受の場合は、内輪回転・外輪静止の条件下、スラスト軸受の場合は、一方の軌道輪を回転もう一方の軌道輪を静止させた条件下において、定格寿命が100万回転となるような、「方向と大きさとが変動しない荷重」のことを、基本動定格荷重と呼びます。
動等価荷重とは、大きさ・方向が変わらず、「実際の荷重や回転の条件時と同じ寿命」が得られるような荷重と定義されています。
P=XFr+YFa[N]
Fr:ラジアル荷重 [N]
Fa:アキシアル荷重 [N]
X:ラジアル係数
Y:アキシアル係数
基本静定格荷重は、最も大きな荷重を受ける接触部の中央において、転動体の永久変形量と軌道輪の永久変形量とを足した合計が、転動体の直径0.0001倍になるような静止荷重、として定義されています。
補正定格寿命
ベアリングの信頼度90%とされる基本定格寿命は、前述の計算式によって得られます。しかし、使用用途次第では、90%よりも高い信頼度でベアリングの寿命を要求されるケースもあります。また、使用する材料や製造方法、あるいは使用条件により、ベアリングの寿命は変わってきます。こういった点を考慮し、基本定格寿命を補正した寿命のことを、補正定格寿命と呼びます。計算式は次の通りです。
Lna= a1・a2・a3・L10
Lna:補正定格寿命106 回転
a1:信頼度係数
a2:軸受特性係数
a3:使用条件係数
信頼度係数a1の値は、90%以上の信頼度に対して,以下のようになっています。
信頼度90%の場合、L10信頼度係数a1 1.00
信頼度95%の場合、L5信頼度係数a1 0.62
信頼度96%の場合、L4信頼度係数a1 0.53
信頼度97%の場合、L3信頼度係数a1 0.44
信頼度98%の場合、L2信頼度係数a1 0.33
信頼度99%の場合、L1信頼度係数a1 0.21
ベアリングの材料の種類や品質、製造方法などが特殊な場合、寿命に影響するベアリングの特性が変わります。こういったケースでは、軸受特性係数a2で寿命を補正します。一般的に、a2=1とされています。
ベアリングで特に潤滑が寿命に影響する場合に使用条件を補正する係数a3。一般的に、良好な潤滑の場合はa3=1。さらに潤滑の条件が良好な条件下で且つ、軸受に対するその他の要因も正常なケースにおいては、a3>1となる場合もあります。ただし、「回転の速度が特別低い」「ベアリングの使用温度が高い」「ベアリングの使用温度における潤滑油の動粘度が低い」「潤滑剤に異物や水分などが混入する」といったケースでは、a3<1となります。
現在では、ベアリングに用いられる材料やベアリングの製造技術が大きく進歩しました。取り付け時の誤差や異物がなく、潤滑の状態が良好な条件下においては、一般的に計算される定格寿命よりも数倍の長寿命が得られるケースもあります。