生産財マーケティング 2004年9月号
・ ”3倍ゲーム”の急成長
2002年度の売上高8.7億円、03年度24.4億円、そして04年度目標70億円──。倍々ゲームという言葉はあるが、住商グレンジャーの売上げ推移をみると”3倍ゲーム”の急成長を示している。その秘訣はどこにあるのか。
製造業が購入する資材には、金属や合成樹脂、部品など製品の原料となる「直接資材」と、製品・運搬・販売などの過程で使われるさまざまな工具、文房具、清掃用具などの「間接資材」に分けられる。このうち同社は、間接資材だけを対象にインターネットやカタログで通信販売し急成長を遂げてきた。
同社のキャッチフレーズは、『専門的な事業者向けの現場を支えるネットストア』。事業者向けの購買支援サイトであることを全面に押し出している。大企業と違い、強力な購買部門を持たない中小企業にとって、消耗品の調達は悩みの種だ。と言うのも、安くて良い商品を探すには手間がかかる。仕方なく高い品物を買わざるを得なかった。しかも選択できる幅も限られていた。
こうした状況を見た瀬戸社長は、「企業規模にかかわらず、公平にネットで価格や機能を公開すれば、顧客は調達の時間と費用を節約し、本業に集中できるはず」と考え、実現した。
「急成長できたのは、顧客企業の『コストの節約』と『時間の節約』に貢献できたため」と同社では受け止めている。
・ ワンストップ・ショッピング
同社が工場用間接資材のECサイト「MonotaRO.com」を立ち上げたのは2000年11月。出資企業は当初、住友商事と間接資材の卸売会社最大手、米グレンジャー(Grainger International INC.)の2社だったが、その後、ワークスキャピタル、UFJキャピタル、SMBCキャピタル、新規事業投資株式会社等のベンチャーキャピタルが加わり、現在の資本金約30億円を形成している。
「モノづくりを支援する」という思いを込めた同サイトの名称は、間接資材の総称であるMRO(Maintenance Repair and Operation Products)にも通じる。工場用間接資材60万品目をデータベース(電子カタログ)化し、その中から、工場の購買担当者が必要なものを簡単に検索し、発注できる仕組みだ。
瀬戸社長によると、「企業が購入する資材のうち、間接資材は購入価格の20%しか占めていません。にもかかわらず、購入に要する時間は直接・間接を合わせた資材全体の80%に達するほど面倒とされています。当社は『ワンストップ・ショッピング(1ヵ所ですべて購入可能)』で、購入の手間を大幅に省けるようにしたのです」と説明する。
品揃えは、照明・電池からトナー・インク、事務用品、手袋、安全靴・安全スニーカー、メガネ、マスク、安全用品、作業服、安全標識、テープ、梱包用品、荷役運搬、キャスター、トラック用品、清掃用品・洗剤、接着剤・補修材、スプレー・オイル・グリス、測定用品、切削工具、研磨材、作業工具、電動・空圧工具、塗装用品、溶接用品、ポンプ、配管・継手・バルブ類、カプラ・空圧機器、ねじ・ボルト類、ベアリング・伝動機器、季節商品、ステンレス製品、マグネット工具、機械部品、制御機器まで多種多様。
60万品目の中で毎日発注のある1万5,000品目を在庫しており、「商品はたとえ1個でも、在庫のあるものは当日出荷。在庫にないものでも、ほとんどの商品が3〜5日以内に出荷可能」(同)という。
・ フェアでリーズナブルな価格
そもそも同社のビジネス・ターゲットゾーンは、「購買頻度は低いが、大企業も中小企業も買っている標準品の領域」である。この領域は、買い手の購入価格がバラバラ。大口需要なら安く、小口買い付けの場合は高めに値段が設定され、同じ工具を買うのに値段差が2倍以上になることもあるという。
つまり、一つの物に対していろいろな価格が存在する「一物多価」が実情なのである。これに対して同社では、この価格なら、ほとんどの人が安いと感じてくれるレベルをワンプライスで示している。そこには大企業も中小企業も、大口購買も一品買いも関係ない。
「当社では顧客が大企業であれ、中小企業であれ、すべての品目を”一物一価”とし、フェアでリーズナブルを貫いています」(同)というスタンスなのだ。
・ 米留学が転機
同社のモットーは、「商品1個からでも配達し、価格は”一物一価”」。瀬戸社長がこのビジネスモデルを見つけたのは米国留学の時だった。
同氏は1960年生まれ、名古屋出身。東大経済学部卒業後、住友商事に入社。特殊鋼を扱う仕事に就き、90年には米デトロイトの駐在員勤務を経験したあと、米ダートマス大でMBA(経済学修士)取得のために留学。1996年に留学を終え、再びアメリカ・シカゴに現地法人の社長として赴任した。
ビジネススクールでは、起業家精神旺盛な友人たちに触発される部分が大きかった。このとき、インターネットの検索機能を使ったビジネスに将来性を感じたという。
当時、米大手問屋のグレンジャー社がインターネットと店舗を使って間接資材を全土で販売していた。同社は70年前にシカゴで創業。今から25年前に間接資材のB2Bビジネスを始めた。業界の抵抗を受けながらも、水平的にいろいろな製品をカタログに、ワンプライスで載せるカタログ販売を進め、現在年商6,000億円で最大手企業の1つである。
瀬戸氏は、同手法を応用すれば日本でも必ず普及すると考え、日本に戻ると、早速、住商本社とグレンジャーに日本での事業化を提案した。
当時、米国ではECが本格的に普及し始めていた。米国ではMetalsiteやe-Steelといった鉄鋼製品のECサイトが立ち上がっており、住友商事の鉄鋼部門でもいずれは押し寄せるであろうECの潮流に対応すべく、瀬戸氏をチームリーダーとする「eコマースチーム」を発足させた。
ところが、国内のエンドユーザーに対する調査などにより、顧客が最も求めているのは、鉄鋼などの直接資材よりも間接資材の調達合理化であることが分かった。
工場現場で使う間接資材の数は、500〜600万品目にのぼるといわれている。これらの資材を一手に取り扱う業者はない。したがって、これらの間接資材を総合的に扱うECサイトを構築すれば、多様な商品群の中から購買担当者が求めている商品を容易に検索して、発注することができる。
本来、こうした幅広い資材の取扱いは、多くの産業にまたがって事業展開する総合商社が担ってきた機能だったが、時代の流れとともに組織的にカバーできなくなっているのだ。
「ある所からない所へ」というのが、これまで商社が担ってきた機能のひとつであった。例えば水資源が豊富な地域では考えられないことだが、砂漠地帯で水を売れば立派なビジネスになる。同様に、顧客が本当に求めている価値あるサービスが、ECというツールの手を借りて新しく生まれ変わり、俄然事業として光彩を放ち出すのである。
eコマースチームが主導する形で、工場用間接資材のECサイトを構築するコンセプトが固まったのが99年末。しかし、実際にECサイトを立ち上げようとすると、システム構築に膨大な時間とコストがかかる。予算にも時間にも限りがある中で、NECがASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)を活用したECサイト構築を提案した。
NECが販売するECパッケージ「Commerce Center 6.3」は、商品登録・検索か見積もり、受発注に至るまで、ECに必要な基本機能を装備しており、サイトの早期立ち上げが可能だった。
さらにNECがASPとなってECパッケージ機能を提供すれば、低コストで済む。そこで同社ではこの提案を受け入れ、取扱商品のデータベースの構築と事業化を進めていった。
従来、電話帳よりも厚い商品カタログでさえせいぜい7〜8万品目しか掲載されていなかったが、同社の電子カタログは一気に20万品目を超す資材を網羅していた。サイトにアクセスすれば、必要な資材をメーカー名や品番などでキーワード検索するか、分類ごとにカテゴリー検索し、価格情報等を参照したうえで、注文書を作成、発注まで一貫して済ますことができる。
・ 「業界全体が利益を享受」
製造業はMonotaRO.comを活用することで、多種多様な間接資材を素早く手間をかけずに調達でき、しかも調達コストを削減できる。
MonotaRO.comで取り扱う間接資材は、住商グレンジャーが卸売会社から買い上げる仕組みで、買値と売値の差額が同社の収益となる。既存の卸売商社にとっても”新規ルートによる取り引き増”につながることから、瀬戸氏は「業界全体が利益を得られる仕組み」と胸を張る。
当初はいまひとつ関心が薄かったユーザーだったが、『低価格かつ小ロットでも値段は同じ。事務コストは軽減され、納期も迅速』という点が中小企業から支持を受け、1年半後の02年5月には顧客企業が1万社を超えた。
・ 7つの強み
ここで、既存の流通ルートには無い、同社ならではの”強み”を探ると、以下の7つが挙げられる。
【1】日本最大の商品点数……現在60万品目も扱っている間接資材のサイトは他にはない。アスクルやコクヨネットは数万点である。また、取扱範囲も文具限定ではなく、すべての工業資材が入っているところも大きな違いといえる。
【2】テストサイトの経験に基づいた使いやすさ……まず、テストサイトを立ち上げ、そこでの経験を踏まえて現在のサイトを作っているので、サイトとしての使い勝手が良い。
【3】価格競争力……ITを利用した流通コストの低減とともに、出身が商社ゆえに、どこから買えば安く買えるのかという知識を持っている。この2つの点から高い価格競争力を維持している。
【4】価格を明示した紙カタログ、電子カタログ……同社の明示する価格は売れる値段をワンプライスで示している。他社のように、リファレンスプライスを示し、実際の値段は別ということはしない。情報が簡単に手に入るというインターネット上のメリットを生かすためには、正確なワンプライスを示すことが大切である。これはB2Cでは実現しているのに、B2Bでは実施されていない。ワンプライスだと顧客に不安を抱かせないし、駆け引きもいらない。信頼されるようになれば、これが時間の短縮につながることが理解される。
【5】米国グレンジャー社の経験……これまでのところのB2Bにおける成功例として、グレンジャー社の経験を活用できる。
【6】強力な検索機能……60万品目の商品群から、顧客が必要なものを見つけ出すためには、検索機能が重要になる。この機能を強化するために、テンマという新しい検索エンジンを導入。この検索エンジンは、品番、キーワード、メーカー名、商品属性を組み合わせた検索が行えるので、商品知識がない人でも、過不足なく、すばやく商品に行き着ける。
そして同社の7つ目の強みは、エンドユーザーの実情を直接掴んでいる点にある。住商グレンジャーでは顧客の受注状況をすべてデータベースで管理している。個別ID数も現在では8万3,000件を超え、「各業種の顧客が何を購入しているのか、その傾向を分析することで、こちらからさまざまな組み合わせの販売を提案できる」というのである。
・ 年商2,000億円が目標
同社では毎日、インターネットで世界中のHPを検索、新たなビジネスチャンスを探している。どの国でどういう商品が売れているかを、とことん調べる。そして最後は現地へ出かけて行って、自分の目で見てくることが大切なのだそうだ。こうした努力で、たとえばこれまで常識とされてきた価格の半額で買える仏製のコンクリートドリルなどを発掘し、好評を博しているという。
現在、社員35人、パートとバイトを含めても140人前後の人員構成。オフィスでは社長以下、ノーネクタイの軽装で仕事に取り組んでいる。
デスクに1台、ざっと100台近くはあるパソコンには、社員のお手製のものもかなり含まれている。少しくらいのトラブルや不具合なら社内で修理してしまうなど、自己完結型の組織を目指している。
ところで、同社がターゲットにしている間接資材の市場規模はどのくらいだろうか?
瀬戸社長は、「GDPから間接資材の市場規模を計算したところ、およそ20兆円。業界別市場規模の積み上げ算によると7〜8兆円規模」という。同社が主な対象と見る業種は、製造業、建築、土木業、運送業で全国に約97万社あるが、このうちすでに約6万7,000社が契約している。
今後、取引先の開拓に向けて、安価な商品提供や利便性の向上、最適商品の紹介などのサービス改善に努めることで、2004年度の登録顧客数を8万社に増やし、2006年度には20万社を顧客とすることで、年商2000億円とする。」目標を立てている。
そのための布石の一つがプライベートブランド(PB)商品の取扱いだ。同社では、高品質・低価格な商品を提供するため、今年から海外輸入品の取扱いを始めたが、7月には初のPB商品の販売を開始した。中国企業と提携して製造を委託することで、低コストで生産する体制を構築する。
今回販売開始したPB商品は、研磨材、マスク、電池、マテリアルハンドリングなど。購入頻度の高い消耗品の中から、ユーザーからの要望が高い品目を選択し、価格は従来品の半額に設定した。
中でも研磨材は同社の顧客約6万7,000社のうち、メーンユーザーとなる製造業・工事業者の半数以上が使用する中核商品で、十数種類を取り揃え顧客ニーズに応えていく。
今後、消耗品を中心にラインアップを拡大し、年内にPB商品の売上げを全体の10%程度にまで高める考えでいる。
機械工具商社の多くは、より安い価格で顧客に製品を提供と、利益率の改善を図る目的からPB商品の開発を進めているが、同社でもコストパフォーマンスの高いPB商品をラインアップに加えることで、売上げ拡大と利益率向上を狙っている。
また、7月14日から研磨材カテゴリー全商品約1万品目を毎週水曜日に限り5%割引で販売するサービスを開始した。今年4月から期間限定で開始した「毎週金曜日の切削工具5%割引」の継続も決定。昨年から開始した「土日祝日のインターネット注文」による割引に加え、水曜日は研磨材、金曜は切削工具をいう3つの特定予備割引サービスを行っている。
一方、2003年10月には商品在庫と出荷作業を行っている物流センター(東大阪市)を従来の2倍の約6.600平方メートルに拡張。さらに同11月にはインターネット専業のイーバンク銀行と提携し、法人向け通販では業界初のネット決済サービスを始めるなど、業容拡大に向けて着々と布石を打っている。
・ 社員を大事にすることが経営の第一歩
将来の夢は、社員がここにいて幸せと思える会社にすることです。それには、私自身が本当の意味で経営のプロにならなければなりません。
口はばったい言い方ですが、日本には本当の意味でのプロの経営者が少ないと思うのです。なかには、金儲けのことしか考えていないのではないかと思わざるを得ないような経営者も見受けます。
社員を大切にしながら金儲けするのが、本当のプロの経営者と私は思うのです。社員を大事にすると、社員は儲けようと思って顧客を大事にします。そうすれば、金が儲かって株主が大事にされます。
経営者にとっては、株主が一番大切とよく言いますが、要するに株主を大事にするということは金を儲けることであり、突き詰めれば社員を大事にすることだと思うのです。
社員を大切にしながら金儲けをする──。これこそが、本当のプロの経営者に求められていることだと思います。